「初年度100万人、売上100億円超」——2026年7月に開業1周年を迎えた「ジャングリア沖縄」が発表した数字だけを見れば、成功に見える。
だが運営会社のCEO自身が「思うような数字に至らない結果」と不振を認め、大手経済メディアが「資金ショート」の可能性を報じ、9月24日には運営会社の初年度赤字が89億円余り(親会社は173億円余り)だったことも明らかになった。
さらに10月30日には親会社の株主総会でこの決算が承認され、運営会社のCEOが会見で「新たな出資者を探す」と表明した。
100万人も来て、なぜ苦しいのか。沖縄県民の目線で、公表されている数字だけを使って冷静に読み解く。
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初年度100万人、それでも「思うような数字ではない」
まず押さえておきたいのが、「100万人」という数字のカラクリだ。
この100万人には併設スパの利用者が含まれた延べ人数で、テーマパーク単体の来場者数は公表されていない。
運営会社ジャパンエンターテイメントが採算ラインの目安としていたのは、隣接する沖縄美ら海水族館(年300万人超)の半分にあたる年間150万人。
森岡毅CEO率いる「刀」は開業時に「150〜200万人で採算が取れる」と語っていたが、初年度はこれに大きく届かなかった。
運営会社の加藤健史CEOは1周年の会見で、来場者数について「残念ながら、思うような数字に至らない結果」と自ら不振を認めている。
2026年初頭には平日の来場者が1日約2,000人まで落ち込んだとも報じられた。
なぜリピートされないのか──県民目線の3つの壁
沖縄に住む立場から見ると、苦戦の構造は開業前からある程度予想がついた。ポイントは3つだ。
- アクセスの壁。
建設地は本島北部・名護市と今帰仁村にまたがる元ゴルフ場跡地で、那覇空港から車で約1時間半。
県民が「また行こう」と気軽に通える距離ではない。 - 暑さの壁。
屋外体験が中心のパークで、亜熱帯の沖縄では日中の暑さと日陰の少なさが快適性を大きく削る。
真夏に一日過ごすのは相応にきつい。 - 「また来る理由」の壁。
同じ北部の美ら海水族館には「水族館」という強力なコンテンツ(IP)があり、リピートの理由になる。
ジャングリアは体験型だが、繰り返し訪れる動機の設計が難しい。
実際、マーケティングリサーチ会社リサートが2026年7月に首都圏在住者800人を対象に行った調査では、ジャングリアの認知率は約7割(68.5%)に達したものの、「行きたい」は26.5%にとどまり、「行きたくない」が46.7%と約半数を占めた。
知られてはいるが、行きたいと思われていない——これが現状だ。
SNSでもその評価は真っ二つだ。
ただし、再生数稼ぎのためにネガティブ要素を発信している物も少なくないので、一度は実際に訪れて、見極めてほしい。
前例は「イマーシブ・フォート東京」
不安に拍車をかけているのが、同じ「刀」が手がけたお台場の屋内テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」だ。
こちらは2024年の開業からわずか2年で閉業を決め、累積赤字は62億円に達したと報じられた。
「マーケティングの神様」と呼ばれた森岡氏の新規事業が2年で畳まれた——
その残像が、そのまま沖縄に重ねられている。
「10月に資金ショート」報道の真相
資金繰りの不安を最初に具体的に報じたのは日経ファイナンシャルだ。
2026年5月20日の記事では「5月に資金が足りなくなるかもしれない」とされ、続く9月15日の記事では「10月第1週にも資金が足りなくなるかもしれない」と、より切迫した表現になった。
総事業費約700億円のうち半分以上を占めるのが複数の金融機関による協調融資で、その銀行団が追加融資の判断を迫られている、という構図だ。
ただし、これはあくまで経済メディアの観測であり、閉園や破綻が決まったわけではない。
「潰れそう」というSNSの空気と、報じられている事実の距離は、冷静に見ておきたい。
【10/30追記】その後の10月、全額政府出資の沖縄振興開発金融公庫が30億円のつなぎ融資に踏み切ったと報じられた。目先の資金ショートは回避された形だが、これは新しい出資者が決まるまでの「時間稼ぎ」の資金だ。詳しくは下の10/30追記で整理する。
【9/24追記】親会社「173億円の赤字」、本当に見るべきは89億円のほう
2026年9月24日、NHKが報じた。ジャングリア沖縄の運営会社の親会社「ジャパンエンターテイメントホールディングス」の、開業後初となる決算(2026年6月までの1年間)は、173億円余りの最終赤字だった。
SNSでは「173億円が消えた」「親会社の刀が大赤字」といった声が飛び交っているが、この数字は分けて読む必要がある。
まず、この親会社は「刀」ではない。ジャパンエンターテイメントホールディングスは、運営会社ジャパンエンターテイメント(JE)の上に置かれた持株会社で、JEと同じ名護市の住所にあり、代表も同じ加藤健史氏だ。
次に、173億円の中身。NHKによれば、子会社であるJEの最終赤字が89億円余りにのぼった結果、親会社が持つJE株について多額の「株式評価損」を計上したためだという。
評価損は、帳簿上の株の値段を切り下げる会計処理だ。173億円という現金が外へ出ていった、という意味ではない。
では、本当に見るべき数字は何か。運営会社JEそのものの赤字、89億円余りだ。
開業前の準備期だった前期(2025年6月期)の赤字は50億9,800万円。それが、パークを1年まるごと営業した今期は89億円余りへと膨らんだ。
100万人が来て、売上100億円超の見通しを立てても、1年で約89億円の赤字。「思うような数字に至らない」というCEOの言葉は、決算でこういう形になった。
体力の目安も見ておく。JEの前期末の株主資本は約251億円。今期の約89億円の赤字をそのまま差し引くと、単純計算で160億円台前半まで減る(期中の増資などがなければ、の概算)。
まだ債務超過ではない。ただ、開業1年目で自己資本の3分の1強が削れた計算になる。この「残り体力」と、銀行団・公的金融機関の判断が、次の分岐点だ。
【10/30追記】決算承認と会見——「縮小して黒字を出す」計画の中身
2026年10月30日、親会社のジャパンエンターテイメントホールディングスは那覇市内で株主総会の継続会を開いた。9月25日の総会で持ち越しになっていた2026年6月期決算(最終赤字173億円余り)は、この日に承認された(時事通信)。
終了後には運営会社JEの加藤健史CEOが会見を開き、開業1年目の決算内容と今後の方針を説明した。報じられた数字を整理する。
ポイントは「規模を縮めて、客が少なくても利益が出る体質にする」という方針だ。
具体策として挙げられたのは、人員の適正化、外部委託や広告費の削減、そして団体客の誘致。共同通信の配信記事によれば、今期は赤字額を13億6千万円に縮める計画で、来春までに構造改革を終え、この集客水準でも黒字を確保できる形を目指すという。
来場者が前期から約3割減る見込みでも、赤字を縮められるのか。会社自身が、集客の目標を大きく引き下げたこと自体が、開業前の想定とのズレを物語っている。
加藤CEOは、開業前に運営の準備や暑さ対策を十分にできないまま開業を迎え、期待に見合うサービスを提供できなかったと説明した(読売新聞)。日本経済新聞の一問一答では、真夏の繁忙期に開業したことへの後悔にも触れている。
株主からは経営陣や、開発を主導した「刀」の責任を問う声が出た。加藤氏は、自身の進退は新しい出資者が事業を展開する中で、既存株主・新株主・金融機関に預ける形になると述べた。
一方、筆頭株主の刀の森岡毅CEOは、継続会の後、事業を軌道に乗せる考えを記者団に示したものの、経営改善策や刀の撤退についての質問には答えなかったと沖縄タイムスが報じている。
新しい出資者は決まっていない
最大の焦点だった新スポンサーについては、報道で温度差がある。
読売新聞は関係者の話として、数社が関心を示しており、来年2月の出資決定を目指していると報じた。一方、時事通信は、出資を巡り現時点で交渉している特定の企業はないと伝え、日本経済新聞の一問一答では、加藤CEOが「契約が確定している事実はない」と述べている。
「関心がある」と「交渉している」は別の段階だ。決まるまでは「数か月から半年」というのが会社の見立てである。
資金面でも整理しておく。読売新聞によれば、今年4月に開業時の協調融資に参加した金融機関の一部から追加で20億円、10月には沖縄振興開発金融公庫から30億円の融資を受けた。公庫の30億円には優先弁済の条件が付き、新しい出資者の参画を前提にしたつなぎ融資という位置づけで、さらなる追加融資はハードルが高いとみられるという。
優先弁済とは、返済の順番を決める場面で、その貸し手が他の借入より先に返してもらえる取り決めのことだ。
それでも「即閉園」と言い切れない理由
一方で、悪い数字ばかりではない。
運営会社によれば、パークの満足度は開業月の69.2%から2026年5月には89.2%へと上昇。
人気の「ダイナソーサファリ」の待ち時間は最大200〜300分から約60分へと短縮され、「行った人の評価」自体は改善している。
りゅうぎん総合研究所は初年度の経済波及効果を494億円と試算しており、地域経済への貢献も小さくない。
チケット面でも、好評だった「ふらっとチケット」を2026年8月にレギュラー化するなど、てこ入れが続く。
地元との関係づくりにも動いている。
1周年のアニバーサリープログラム第一弾として、沖縄出身のガレッジセール・ゴリさんが「ゴリ応援団長」に就任。
ゴリさんは開業前からアトラクション「やんばるフレンズ」のキャラクター「シシ」の声を担当してきた縁で、「忖度せず、良いところは良い、足りないところは足りないとはっきり伝える」役割を掲げる。
県民のもとへ出向く「もっと近くにプロジェクト」も進行中で、運営側が地元の評価を意識して立て直しを図っている様子がうかがえる。
銀行団としても、巨額の融資がすでに出ている以上、簡単に手を引けば回収不能額が膨らむ。
事業を続けるにも畳むにも損失が伴う——この構造が、性急な「閉園」を押しとどめている面もある。

行くなら、実は”今”が狙い目
皮肉なことに、来場者が落ち着いた今は、パークを快適に楽しむにはむしろ好機だ。
開業直後は3〜5時間待ちが当たり前だったアトラクションも、現在は多くが30分以下、最人気の恐竜サファリでも20分前後にまで短縮されている。
「話題のうちに、混雑が引いた今のうちに一度見ておく」という判断は十分に成り立つ。
北部は美ら海水族館・古宇利島・今帰仁城跡など見どころが集まるエリアなので、ジャングリア単体ではなく、最低でも2泊3日(できれば3泊以上)で北部を回るプランにすると満足度が上がる。
地元民の私がおすすめするのは、確実に10月以降。猛暑でもなく寒くもない。11月以降はスパも最高だろう。
私なら、アトラクションより、そちら(スパ)をメインに、ホテルからのんびり往復する。
【10/30追記】県民向けの動きとして、琉球新報は10月29日、県民の駐車料無料が通年化されたと報じた。一方で、那覇発のジャングリア行き高速バスが減便され、1日2往復になるとも伝えている。那覇から公共交通で行く場合は、運行状況を事前に確認しておきたい。
また、公式サイトの案内によると、2027年1月以降は原則として毎週月曜日が定期メンテナンスのための休業日になる(祝日と繁忙期は対象外)。月曜に旅程を組む場合は注意してほしい。
予約は用途で選ぶのが早い。
入場チケットや体験を口コミ付きで選ぶなら「じゃらん」、宿・レンタカーまでまとめて手配して泊まりで回るなら「沖縄ツーリスト(OTS)」。
まずは料金とプランだけでも見ておくと、旅程が一気に固まる。
まとめ
ジャングリア沖縄は、初年度100万人・売上100億円超という数字を出しながら、採算ラインの150万人には届かず、決算でも運営会社の初年度赤字は89億円余りと数字で示された。
10月30日には親会社の決算が承認され、公庫の30億円のつなぎ融資も入って、目先の資金ショートは回避された形だ。ただし、それは新しい出資者が決まるまでの時間を買う資金にすぎない。
「即倒産」と煽るのは早計だが、「自力で回っていない」のは事実だ。
県民として応援したい気持ちはあるが、感情ではなく数字で見れば、これからの分岐点は2つ。新スポンサーが来年2月ごろまでに決まるか、そして売上が半分近くに縮む前提の構造改革が、来春までに計画どおり終わるか、である。
そしてもう一つ、この記事では触れなかった、より本質的な問いがある——
100万人も来て売上100億円あるのに、なぜ「金が回らない」のか。
よくある質問
- Qジャングリア沖縄は本当に潰れるのですか?
- A
閉園や破綻が決まった事実はありません。
2026年9月に日経ファイナンシャルが「10月第1週にも資金が足りなくなるかもしれない」と報じましたが、10月には沖縄振興開発金融公庫が30億円のつなぎ融資を行ったと報じられました。
10月30日の会見で運営会社は、パークの営業を続けながら新たな出資者を探す方針を示しています。ただし出資者はまだ決まっておらず、資金繰りの厳しさは続いています。
- Qジャングリア沖縄はいつ潰れるのですか?
- A
「いつ潰れる」と言える確定情報はありません。閉園や破綻が決まった事実はなく、10月30日には親会社の2026年6月期決算が承認され、パークは営業を続けながら新しい出資者(スポンサー)を探す方針です。
出資者はまだ決まっておらず、運営会社は数か月から半年ほどかけて探すとしています。読売新聞は関係者の話として、来年2月の出資決定を目指していると報じています。
決まらなかった場合は資金繰りが再び焦点になる可能性があるため、2027年2月前後が次の注目時期です。
- Q10月30日の株主総会・会見で何が決まりましたか?
- A
親会社の2026年6月期決算(最終赤字173億円余り)が承認されました。運営会社は、人員の適正化や外部委託・広告費の削減といった構造改革で、来場者が減っても稼げる体質を目指す方針です。
今期は来場者63万8千人・売上56億8千万円を目標とし、黒字転換は2028年6月期を目指すと報じられています。
- Q新しい出資者(スポンサー)は決まりましたか?
- A
決まっていません。加藤CEOは、契約が確定している企業はないとしたうえで、数か月から半年ほどかけて探す考えを示しました。
読売新聞は関係者の話として、数社が関心を示し、来年2月の決定を目指していると報じています。
- Q親会社の「173億円の赤字」は、173億円のお金が消えたということですか?
- A
違います。親会社ジャパンエンターテイメントホールディングス(刀ではありません)の173億円余りの赤字は、子会社で運営会社のJEが89億円余りの最終赤字となったことを受け、JE株の評価損を多額に計上した結果です。事業の実態を表すのは、運営会社JEの初年度赤字89億円余りのほうです。
- Q初年度の来場者100万人は成功ではないのですか?
- A
100万人は併設スパの利用者を含む延べ人数で、パーク単体の数字は公表されていません。
採算の目安とされた年150万人には届かず、CEO自身も「思うような数字に至らない」と認めています。なお、決算期(2026年6月末まで)の来場者は95万6千人と報じられており、7月の発表とは集計期間が異なります。数字の内訳に注意が必要です。
- Q今から行っても楽しめますか?混雑状況は?
- A
むしろ今は狙い目です。
開業直後は3〜5時間待ちだったアトラクションも、現在は多くが30分以下、恐竜サファリでも20分前後まで短縮されています。
満足度も改善しているため、混雑が引いた今のうちに訪れるのは合理的な選択です。暑さを避けるなら10月以降がおすすめです。
- Q運営しているのはどこの会社ですか?
- A
運営会社は株式会社ジャパンエンターテイメント(名護市、加藤健史CEO)です。
USJをV字回復させた森岡毅氏が率いるマーケティング会社「刀」が筆頭株主で、オリオンビールなど地元企業やJTB、近鉄グループなども出資しています。
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本記事は2026年11月1日時点で公表されている情報にもとづきます(9/24:親会社・運営会社の決算を追記、10/30:決算承認と会見内容を追記)。数字や状況は今後変わる可能性があるため、最新情報は各公式発表をご確認ください。うさぎ研究員🐇|USAGI GIKEN


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