スペースX、上場2週間で全部剥がれた話──だから庶民は手を出すなって言ったんですよ

スペースX(SPCX)株価急落を示すアイキャッチ画像。右肩下がりの株価チャートを背景に「ESG最低ランクCCC」「錬金術社債」「ロックアップ衝突」のタグと、6月16日ピークから-31%の表示
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正直に言うと、ここまでの内容は一度ちゃんと300円で売ろうと思っていました。
ロックアップのカレンダー、社債のからくり、指数組み入れの裏側まで、わりとちゃんと調べて書いたので。

でも書き終えて読み返して、考えを変えました。
イーロン・マスクと、彼の周りにいるテックリバタリアンたちが今何をやっているのか──これは別にお金を払った人だけが知っていればいい話じゃないな、と。

なので今回は、全文無料で公開します。

ちなみに、普段こういう「ちょっと踏み込んだ本音」は、このサイトじゃなくてNOTEの方に書いています。
本サイトとは少し毛色の違う、もう少し砕けた一人称の媒体だと思ってください。

ついでに言うと、「そもそも私がなぜここまでスペースXを嫌っているのか」を、もっと笑える本音ベースで書いた記事もNOTEに置いてあります。
今回の記事よりだいぶ感情的で、読んだ後の溜息の量がちょっと変わると思います。
気になる方はこちらもどうぞ(¥300)。

スペースX、上場2週間で全部剥がれた話──だから庶民は手を出すなって言ったんですよ

だから言ったじゃん。庶民がスペースXのIPOに手を出すとどうなるか。


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スペースX(SPCX)の4時間ローソク足チャート。6月16日に225ドル付近でピークをつけたあと、6月22日のESG格付け報道を境に急落し、6月25日時点で154.48ドルまで下落したことを示すTradingViewの価格チャート
SPCX 4時間チャート(6/12〜6/25)。6月16日の225ドル超ピークから、6月22日のCCC格付け報道を境に転落。
25日時点の終値は154.48ドルで、ピークから約31%の下落となっている。
Chart by UsagiGiken(TradingView)

だ、か、ら。

前回、ウィトコフとティールの記事の最後に、私はこう書きました。

「もし当選していたなら、まずは『いつ売れるのか』を正確に把握すること。それだけで、何も考えずに踊って燃やされる側にはならずに済むだろう」

社交辞令でも、保険をかけた言い回しでもなく、本気で書いたつもりです。

あれから2週間。
スペースX(SPCX)、見出しを飾るのが「いつ売れるのか」より先に「いくら溶けたのか」になるという、なかなか盛大な答え合わせをしてくれました。

正直、ここまで早く来るとは思っていませんでした。
予言が当たって気持ちいい、みたいな顔をするつもりは一切ないです。むしろ普通に嫌な気分で見てます。

まず「何が起きたか」を一度整理します。
そのあとで、ニュースの見出しにはなっていない、本当に厄介な部分をやります。

第一章: たった10日間で何が起きたか(おさらい)

6月16日、スペースX株は225.64ドルの過去最高値。上場初日の終値160.95ドルから40%超の上昇。
マスクの資産は1兆4500億ドル(約233.45兆円)に到達し、世界初の「トリリオネア」が、さらに桁を伸ばしていた絶頂期です。

そこから6日後、6月22日。
MSCIが、スペースXに7段階評価で最低の「CCC」を付けたという報道が出ました。
ロシアと同じ評価帯。ガバナンスは10点満点中3.2点。「論争」スコアは10点満点中1点で、オレンジフラッグ(深刻な論争への関与あり)。

マスクの反応は、Xでこう。

「残念ながら、電気で駆動するロケットは実現不可能だ」

……うん、テスラがESG指数から外された時とまったく同じノリです。学習能力、なし。

この報道が流れた当日、株価は16.4%急落。
155ドルを割り込み、上場初日の終値すら下回りました。
6月16日の高値からは、わずか6日で31%超のドローダウン。

マスクの個人資産は、ピークの1兆4500億ドル(約233.45兆円)から、6月22日には1兆1000億ドル弱(約177.1兆円)まで縮小。

22日の1日だけで、1520億ドル(約24.47兆円)が消えました。

1日です。1日でですよ。

会社全体としても、時価総額は6月16日の2兆9900億ドル(約481.39兆円)から、6月22日には2兆ドル(約322兆円)前後まで、928億ドル(約149.41兆円)が蒸発。
一時アマゾン・マイクロソフトを抜いて世界4位だった順位は、TSMCの後ろ、世界7位まで後退しています。

ここまでは、皆さんもどこかで見た見出しだと思います。

「マスクの資産が1日で◯兆円減った」系、たくさん出ましたよね。

でも私が本当に気になっているのは、この暴落と完全に同じ週に、スペースXが何をやっていたか、なんです。

社債発行。Cursor買収による希薄化。AI企業への計算資源リース。
そして来週から始まる、指数組み入れラッシュとロックアップ解除カレンダーの”正面衝突”。

ここからは、その「同じ週に何をやっていたか」を掘っていきます。

第二章: “錬金術”の正体──社債、Cursor、計算資源リース

6月22日、つまりCCC格付け報道で株価が16%吹っ飛んだまさにその日に、スペースXは社債発行を発表しました。

タイミング、最悪です。

最悪すぎて、これは「悪いニュースは全部同じ週に出し切ってしまえ」という、企業広報のよくある手口なんじゃないかとさえ思いましたが、これは後段の妄想コーナーで書きます。

社債の規模は最低250億ドル(約4兆円)。
5年・7年・10年・20年・30年の5トランチ構成。

目的は、既存株主を希薄化させずに、ブリッジローン(短期借入)を借り換えること。

ここがポイントです。
「希薄化させずに」は聞こえはいいんですが、裏を返せば「これ以上株を増やすと、ただでさえ下がってる株価がもっと下がる」という判断でもあります。
社債というのは、株主への配慮を装った、株価防衛策でもあるわけです。

しかも信用格付け機関は先週、スペースXに投資適格格付けを付与しています。
ESGで「ロシア並み」の最低評価を食らった同じ会社が、信用格付けでは「投資適格」。
評価軸が違うから矛盾はしていない、というのは正しいんですが、一般の個人投資家が同じ週にこの2つを見せられたら「えっ、どっちなの」と混乱するのも当然です。
情報の非対称性って、こういう小さな矛盾の積み重ねでできています。

注文は850億ドル集まったと報じられています。
250億ドルの調達に対して3.4倍の応募。「すごい人気じゃないか」と思うかもしれませんが、社債投資家と株式投資家は見ている景色が違います。
社債を買う人が欲しいのは固定利回りと優先順位(株主より先に返済される権利)であって、「この会社の将来性に賭けたい」という話とはあまり関係がありません。

ブルームバーグは、この一連の動きを”錬金術”と呼びました。
記事タイトルは「マスク氏がみせる『錬金術』──スペースXが負債増やしつつ利払い削減」。
負債を増やしながら利払いを減らす。
種を明かせば、高コストのブリッジローンを低コストの投資適格社債に乗り換えただけです。
財務担当者としては正しい判断だと思います。
ただこれは同時に、「短期で大金を借りなければならないほど、AI投資にお金が必要だった」ことの裏返しでもあります。

そこに輪をかけたのが、AIコーディング企業Cursorの買収。600億ドル(約9.66兆円)、全株式交換。
IPO時の評価額(1兆7700億ドル)を約3.4%希薄化。
モーニングスターは「大幅な希薄化」と批判し、フェアバリュー見通しを63ドルから62ドルに下げました。
1ドルの差は小さく見えますが、「下方修正の方向が出た」という事実自体が、IPO直後の銘柄にとっては結構なダメージです。
さらにマスクが他の株主を圧倒する議決権を持っているため、こういう大型M&Aの意思決定に他の株主のチェックがほぼ機能しないというガバナンス不安も、複数のアナリストから指摘されています。

そして地味だけど一番”AI企業っぽい“動きがこれ。
CNBCの報道によれば、スペースXはAI新興企業Reflection AIと、計算資源(コンピューティング)のリース契約を結びました。
契約価値は最大63億ドル(約1.01兆円)。
Reflection AIは2026年7月から2029年まで、月1億5000万ドル(約241億5000万円)をスペースXに支払い、エヌビディアのGB300チップを使えるようになります。

つまりスペースXは今、ロケット会社をやめたわけではないですが、「AIインフラの転貸し業」も同時にやっている状態です。
社債で借りて、買収で希薄化させて、計算資源を貸して稼ぐ。
資金の出入りが、もうロケット会社というより、レバレッジを利かせたAIインフラファンドに見えてきます。

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スペースX、上場2週間で全部剥がれた話──だから庶民は手を出すなって言ったんですよ

第三章: 来週から「買わされる側」と「売りたい側」が正面衝突する

ここからが本題、カレンダーの話です。

6月26日:
FTSEラッセルの定期指数再構成で、スペースXがラッセル指数に正式組み入れ。
ジェフリーズの試算では、これだけでパッシブ投資家(指数に機械的に追従するファンド)から約26億8000万ドル(約431億円)が流入する見込み。

6月29日:
スターシップ13回目の飛行。成功すればポジティブ、失敗すれば言うまでもありません。

7月6日:
ナスダック100指数への組み入れ。これもまた機械的な買い需要を生むイベントです。

この3つ、特に6月26日と7月6日のお金は、「会社の業績を見て買う」のではなく「指数のルール上、買わなければいけないから買う」お金です。
ファンダメンタルズへの評価とは無関係。これが今後2週間、株価を支える材料になります。

問題は、その直後に何が来るか、です。

前回の記事でも書いたロックアップ解除カレンダー、覚えていますか。

  • 7月末〜8月上旬: Q2決算発表2日後、保有株の20%が解禁
  • 株価がIPO価格の130%以上を10営業日中5日維持していれば: 追加10%が早期解禁
  • 8月〜10月: 2〜4週間おきに7%ずつ追加解禁
  • Q3決算発表後: さらに28%解禁
  • 12月8日: 完全解禁(マスク本人と一部大口投資家はさらに長く、366日間ロック)

つまり、6月26日〜7月6日に「買わなければいけない人たち」が買い切った直後、7月末から「そろそろ売っても良くなった人たち」が動き出すタイミングが始まります。
指数組み入れの強制的な買いが終わったところに、ロックアップ解除という、強制ではないけれど”そろそろ売っても良い”圧力が乗ってくる。
タイミングが綺麗に噛み合いすぎていて、ちょっと出来すぎだと思いません?

注目イベントカレンダー(6月26日〜12月8日)
日付 イベント 圧力 内容
6/26 FTSEラッセル指数
定期組み入れ
買い圧力 パッシブ投資家から最大26.8億ドル(推定約431億円)の機械的な買い需要(ジェフリーズ試算)
6/29 スターシップ
13号機 飛行
結果次第 成功/失敗で株価が振れる単発イベント。買い/売りどちらにも転びうる
7/6 ナスダック100
指数組み入れ
買い圧力 追加の機械的パッシブ買い需要。業績とは無関係の指数ルール起因
7月末〜
8月上旬
Q2決算発表
2日後
売り圧力 ロックアップ解禁スタート。保有株の20%が売却可能に
(条件付き) IPO価格の130%以上を
10営業日中5日維持
売り圧力(条件付) 条件を達成すると、追加で10%が早期解禁
8月〜10月 段階的解禁
(2〜4週ごと)
売り圧力 7%ずつ、複数回に分けて追加解禁が続く
Q3決算後 大型解禁 売り圧力 さらに28%が解禁。累計でほとんどの株式が解禁済みに
12/8 完全解禁 売り圧力(最大) 180日ロックアップが完全終了。残り全株式が売却可能(マスク本人と一部大口投資家は366日ロックのため、2027年6月12日まで継続)
指数組み入れなど、機械的な買い需要 ロックアップ解禁による、潜在的な売り圧力 結果次第で双方向に振れる単発イベント

オプション市場も、もう動いています。
サスケハナのクリストファー・ジェイコブソン氏によれば、オプション市場のデータは、9月中盤までに株価が130ドルを下回る確率を約40%織り込んでいるとのこと。
130ドルは、IPO価格135ドルより低い水準です。
プロのオプショントレーダーの4割が、「IPO価格を割り込む」可能性を本気で想定しているわけです。

空売り筋の動きも見ておく必要があります。
S3パートナーズによれば、現在約4000万株(浮動株の5〜7%)が空売りされていますが、それでも株の借り入れコストは約60ベーシスポイント。
最も借りやすい銘柄群(約30bp)よりは高いものの、「借りたい人がいくらでも借りられる」状況です。つまりショート筋にとって「これ以上増やすのが難しい」状況には、まだなっていません。
踏み上げ(ショートスクイーズ)で株価が守られる保証は、今のところないということです。

まとめると、来週は「買わなければいけない機械的な需要」が株価を持ち上げる週。
その直後から「売ってもいい人たち」が段階的に解禁され、オプション市場の4割は130ドル割れを織り込み、空売り筋にもまだ増し玉の余地が残っている。
派手な”買い材料”の裏側に、構造的な”売り余地”が静かに積み上がっている。これが、ニュースの見出しにはならない部分です。

番外編: 根拠ゼロの妄想を、一応書いておく

ここまでは公開情報の組み合わせです。ここから一つだけ、完全な妄想を書きます。証拠はありません。

CCC格付け報道、社債発行、Cursor買収の希薄化開示──この3つが、見事に同じ週に固まって出てきました。
企業のIR戦術には、悪いニュースをまとめて同じタイミングで出し切り、次の決算までに市場に消化させてしまう、いわゆる”キッチンシンク”的な手法があります。今回がそれなのか、確認する手段は私にはありません。
たまたま重なった可能性のほうがよほど高いと思っています。

もう一つ。Reflection AIへの計算資源リースが、月1億5000万ドルという比較的安定したキャッシュフローを生む契約だという点も、気になります。
AI企業同士が互いの資金繰りを支え合う関係を作っているように見えなくもない。

これも裏付けは何もありません。完全な憶測、SFの域です。事実として扱うつもりはありません。

ただ、「派手な好材料」と「地味な売り圧力」が同じタイミングで積み重なる構造そのものは、妄想ではなく公開資料から読み取れる事実です。
妄想はあくまで「なぜそうなったか」の部分だけ、というのは強調しておきます。

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おわりに: 別に予言者になりたいわけじゃない

最初に書いた通り、これは「当てた自分が偉い」という話ではないです。
ロックアップのスケジュールは、上場前から目論見書に書いてあった公開情報でした。読むかどうか、それだけの差です。

今回持って帰ってほしいのは、たった3つの日付です。

  • 6月26日と7月6日: 指数組み入れによる、機械的な買いが入るタイミング。
  • 7月末〜8月上旬: Q2決算後、最初のロックアップ解除(20%)が来るタイミング。
  • 12月8日: 全株式のロック解除が完了するタイミング。

買い材料に乗るのも、解除前に降りるのも、それは皆さん自身の判断です。
私はどちらが正しいとも言いません(これは投資助言ではないので、最終判断はご自身でお願いします)。
ただ、「いつ何が起きるか」を知らずにニュースの見出しだけで踊らされるのは、一番もったいない負け方だと思っています。

媚びない。魂は売らない。本質だけを書く。

最後までお読みいただきありがとうございます。
ロックアップ解除が近づいたら、また答え合わせの記事を書くと思います。
多分また「だから言ったでしょ」って書く羽目になる気がしていますが。


もう少し深く知りたい方へ。

少し真面目に経済やマーケットの話題を陰謀論スパイスで深掘りした内容をnoteでも書いています。気になる方はのぞいてみてください。

もう少し読んでみる:USAGI GIKEN note



【用語注釈】

  • *¹ CCC格付け:
    MSCIのESGレーティングにおける7段階評価の最低ランク。重大なESGリスクへの管理が極めて不十分と判断された企業に付与される。
  • *² ロックアップ:
    IPO時に、上場前から株式を保有する経営者・従業員・投資家が、一定期間株式を売却できないようにする契約上の制限。
  • *³ トランシェ:
    一つの債券発行を、異なる償還期間(5年・10年など)に分けて発行する際の、それぞれの区分。
  • *⁴ ベーシスポイント(bp):
    金利や利回りの単位。1bp=0.01%。
  • *⁵ 投資適格格付け:
    信用格付け機関が、債務不履行のリスクが低いと判断した企業・債券に付与する格付け。

参考: フォーブス、フィナンシャル・タイムズ、ブルームバーグ(2026年6月24日)、ロイター、CNBC、スペースX公式リリース(2026年6月22日)

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