チェフェリンUEFA会長(欧州サッカー連盟のトップ)が、来年3月のFIFA会長選には自分は出馬しないと明言した。ポッドキャスト番組でのこの発言自体は、8月24日に日本でもロイターが配信している。
既報の「42億ドル構想が三日で潰れた理由と、インファンティーノに残された106票」で、罷免に必要な票数と、11月23日という臨時総会の日付までは書いた。
今日書くのは、その続きである。招集そのものに必要なもう一つの数字、そして誰が対立候補になり得るのか、という話だ。
結論から言うと、この対立を動かしているのは思想でも正義感でもない。
金である。
①「インファンティーノとトランプ「蜜月」の疑惑」、②「関係資本」で使ってきたキーワードを、ここでも借りる。今日はその「金の地図」を、数字で追ってみる。
106に足りなかった、もう一つの数字
まず、「42億ドル構想」の記事のおさらいから入る。
FIFAには211の加盟協会があり、会長を罷免するには過半数、つまり106票が必要になる。
この票を投じる場である臨時総会は、すでに11月23日に予定されている。
ただし、この臨時総会の議題に「不信任」を正式に載せるには、もう一段階手前のハードルがある。
「42億ドル構想」の記事ではまだ触れていなかった数字が、これである。
規約上、211協会のうち20%=43協会が書面で要求すれば、議題として不信任案を載せることができる。UEFAだけで55協会を抱えているため、理屈の上ではヨーロッパ単独でもこの数は揃う。
(211協会の20%・9月23日締切)
(211協会の過半数・11月23日)
43協会分の署名を集める締切は9月23日。ここを越えれば、「42億ドル構想」の記事で書いた11月23日の臨時総会に、不信任の議題が正式に載る。
数字だけ見れば、反対派は議題化のハードルを軽く越えられる。問題は、その先の106票である。
賛否を分けているのは「開発資金への依存度」
ここからが本題である。FIFAには6つの大陸連盟があり、それぞれが加盟協会をまとめる中間組織になっている。
まずこの顔ぶれを、日本の読者向けに簡単に紹介しておく。
- UEFA(欧州サッカー連盟):
55協会。チェフェリン会長(スロベニア出身の弁護士)率いる、資金力・発言力ともに最大の連盟 - AFC(アジアサッカー連盟):
日本サッカー協会(JFA)が加盟する連盟。会長はサルマン氏(バーレーン王族) - CONCACAF(北中米カリブ連盟):
北米W杯共催国を含む連盟。会長はモンタリアーニ氏(カナダ出身) - CONMEBOL(南米サッカー連盟):
10協会のみだが、ブラジル・アルゼンチンなど発言力の強い協会を抱える - CAF(アフリカサッカー連盟):
54協会。会長はモツェペ氏(南アフリカの鉱山実業家) - OFC(オセアニア連盟):
11協会。今回はまだ態度を明らかにしていない
今回の賛否は、この6連盟できれいに割れている。
UEFA・AFC・CONCACAFは反対、CAF・CONMEBOLは擁護、OFCは態度未定。
CAFのモツェペ会長に至っては「辞めさせたいなら選挙で決めろ」と、インファンティーノ会長を公然と擁護している。
この線引きを、政治的な好き嫌いで説明しようとすると無理が出る。もう一つの角度で見てみる。
金の出どころである。
FIFAには「FIFA Forward(フォワード)」という開発資金の枠組みがあり、211協会に総額27億ドル(約4293億円、1ドル159円換算)規模が配分される計画になっている。
この数字の裏にあるカラクリは④「27億ドルは、罰ではなかった」で書いた通りだが、ここで押さえておきたいのは金額そのものではなく、この資金が協会運営の生命線に近い比重を占めるという事実である。
反対に回っているUEFA・AFC・CONCACAFは、放送権や商業契約による自主財源が相対的に厚い連盟である。
一方、擁護に回っているCAF・CONMEBOLは、FIFAからの配分金への依存度が相対的に高いとされる。
断定はしない。ただ、賛否の地図と、資金依存の地図は、驚くほど重なって見える。
| UEFA(欧州・55協会) | 反対 |
| AFC(アジア) | 反対 |
| CONCACAF(北中米カリブ) | 反対 |
| CAF(アフリカ・54協会) | 擁護 |
| CONMEBOL(南米・10協会) | 擁護 |
| OFC(オセアニア・11協会) | 未定 |
もう一つ、金の流れとして押さえておきたい事実がある。
CAFのモツェペ会長は、JPモルガン・インターナショナル・カウンシルのメンバーでもある。
そしてJPモルガンは、「42億ドル構想」の記事で書いたFFE構想において、FIFA側のアドバイザーを務めていた当の銀行だ。断定材料ではないが、この並びは記憶しておく価値がある。
対立候補は「誰でもいい」わけではない
「42億ドル構想」の記事で書いた通り、フィンランドやウェールズなど、インファンティーノ会長への推薦を撤回する協会がすでに出てきている。
チェフェリン氏の「出馬はしないが、対立候補は現れるはずだ」という8月24日の発言は、その流れの延長線上にある。
では誰が対抗馬になるのか。海外メディアが名前を挙げているのは、主に2人である。
1人目はモンタリアーニ氏。
CONCACAF会長で、カナダ出身。任期は2027年までで、以前からFIFA会長職への意欲を隠していなかった人物とされる。
2人目はサルマン氏。
AFC会長で、バーレーン王族の一員。実は2016年の会長選で、インファンティーノ氏本人に敗れた張本人でもある。
2人とも、それぞれの連盟の資金基盤と地域票を背負っている。
ただ、「42億ドル構想」の記事で触れた「推薦は1協会1候補まで」という規定がある以上、対立候補が本当に出馬できるかは、まだ確定していない。ここは名前だけ押さえておく。
「拒まれた資本」のその後
今回の一連の騒動の発端は、7月末にインファンティーノ会長が発表した「FIFA Forward Enterprise(FFE)」構想だった。
FIFAの商業権の一部を、外部の民間投資家に売却するという内容で、三日で潰れたその全経緯は、以下の記事にまとめてある。
FIFAはなぜW杯を売ろうとしたのか|42億ドル構想が三日で潰れた理由と、インファンティーノに残された106票
そして、レイカーズ売却の記事で予告していた伏線がここでつながる。
FIFAで拒まれた資本の一部は、その後、行き場を変えて別の巨大取引に流れ込んだ。
もう一つ、この構想には、日本ではまだあまり知られていない側面がある。
撤回されたこの構想は、実はインファンティーノ会長本人の懐にも、相応の恩恵をもたらす設計になっていたのではないか、という疑惑である。金額の桁が、今までのFIFA報酬とは一つ違う。
- インファンティーノFIFA会長に「43」の壁|チェフェリン氏が語った対立候補と資金地図

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- 日本でまだ知られていない、FIFA会長のこと。――インファンティーノとトランプ「蜜月」の疑惑を追う

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よくある質問
- Q43協会と106協会は何が違うのですか?
- A
43協会(211協会の20%)は不信任案を臨時総会の議題に載せるために必要な数で、9月23日が締切です。106協会(過半数)は、11月23日に予定されている臨時総会で実際に会長を罷免するために必要な票数です。議題化と可決は別のハードルです。
- QチェフェリンUEFA会長は何を明言したのですか?
- A
2026年8月24日、自身はFIFA会長選には出馬しないと明言しました。一方で、インファンティーノ氏が来年3月の選挙に立候補すれば、対立候補が現れるはずだとも述べています。
- Q対立候補として名前が挙がっているのは誰ですか?
- A
CONCACAF会長のモンタリアーニ氏(カナダ)と、AFC会長のサルマン氏(バーレーン、2016年の会長選でインファンティーノ氏に敗れた人物)の2人が海外メディアで挙げられています。ただし正式な出馬は確定していません。
- Qこの先、いつ何が起きますか?
- A
9月23日が不信任案を議題化する署名の締切、11月23日に臨時総会、そして2027年3月18日にモロッコ・ラバトで次期会長選が予定されています。
9月23日、議題化の締切。
11月23日、臨時総会。
2027年3月18日、ラバトでの会長選。
この3つの日付の間に、あと何が起きるのか。
一協会一票という仕組みは、バヌアツもブラジルも同じ重みを持つという意味で、なかなかよくできている。
ただし今回に限っては、その一票の後ろに、どの協会がどれだけFIFAの財布に頼っているかという、もう一枚の地図が透けて見える。
民主主義というのは、票を数える前に、財布の中身も数えられてしまう仕組みらしい。
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