レイカーズを買った金は、石垣島にもいた|アブダビ・ムバダラと402億円の旗艦物件

沖縄の広大なリゾートに広がる近代的なブルーのインフィニティプールと白砂ビーチ、エメラルドグリーンの海を望む俯瞰
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2026年8月12日、ロサンゼルス・レイカーズが125億ドル、日本円で約2兆円で売却された。
北米プロスポーツ史上、最高額である。

あの取引について3本の記事を書いた。そのうちの1本で、私は一行だけ置いて先へ進んだ箇所がある。

元手はアブダビだった、という一行だ。

では、その金を出した投資家は、他に何を持っているのか。調べ始めて、3日で手が止まった。

石垣島にいた。

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序章|置いたままにしていた一行

順を追う。レイカーズを売ったのはマーク・ウォルター。
ドジャースのオーナーであり、TWG Global(スポーツ・金融・保険を束ねる持株会社)のCEOである。

そのTWG Globalに、2025年4月30日、ムバダラ・キャピタル(アブダビ政府系ファンドの運用子会社)が動いている。150億ドルの増資のうち100億ドルを主導する形だった。
TWG側も同時に25億ドルをムバダラ・キャピタルにコミットし、同社の少数持分を取得している。

この提携が発表されてから2か月足らずで、レイカーズ買収の合意が報じられた。

ESPNのブライアン・ウィンドホーストは、これを一言で表現している。レイカーズは中東の金で買われた、と。

先に断っておくと、この記事で隠された情報は一つも使っていない。すべて公開資料に書いてある。

そして、書きながら一番驚いたのは、買った側ではなかった。売った側だった。その話は最後にする。

第1章|ムバダラ・キャピタルという運用会社

まず、この投資家が何者かを整理する。

ムバダラ・インベストメント・カンパニーは、アブダビ政府が保有するソブリン・ウェルス・ファンド(政府系の資産運用機関)である。
その中核的なオルタナティブ資産運用部門が、ムバダラ・キャピタルにあたる。

100億ドルが入ったTWG Globalの企業価値は、当時400億ドルを超えるとされていた。
その器の中には、ドジャース、チェルシーFC、キャデラックF1チーム、LAスパークス、そして売却されたレイカーズが入っている。

ウィンドホーストは、この投資によってムバダラがそれらの保有に関与することになったと指摘している。

なお、そのウォルター自身は現在、彼が支配する保険会社をめぐって米連邦検事とSECの調査を受けている。
その経緯はシリーズ第3弾にまとめた。

スポーツばかりが目に入る。だが彼らの本業は、そこではない。

レイカーズ売却の経緯と数字については、これまで3本にまとめている。

【第1弾】レイカーズ2兆円売却の3日間|ドジャースのオーナーは、なぜ10か月で手放したのか

【第2弾】ドジャースは売れない|大谷翔平の契約に埋め込まれた一行と、11億ドルの積立金(note)

【第3弾】3%と言っていたものが、39%だった|マーク・ウォルターに何が起きているのか(note)

第2章|2024年5月、日本で起きていたこと

TWGに100億ドルが入る、その1年前の話をする。

2024年5月、ムバダラ・キャピタルが主導するコンソーシアムが、フォートレス・インベストメント・グループ(米国の大手オルタナティブ運用会社)の株式を取得した。
取得後の資本構成は、ムバダラ側が68%、フォートレス経営陣・従業員側が32%である。

ただし、経営陣側が取締役会の過半数を指名でき、投資判断・人事・運営の独立性は維持されるとされている。
ここは後で重要になる。

そして、売り手はソフトバンクグループだった。

ここで日本の話につながる。フォートレスは、日本では単なる外資系ファンドではない。
ホテルと不動産の巨大な事業基盤を持っている。

2024年の資料によれば、フォートレスは2011年以降、日本で176棟・27,457室のホテルを取得してきた。

JAPAN PORTFOLIO
フォートレスが日本で取得してきたもの
ホテル(2011年以降の累計)176棟・27,457室
そごう・西武(2023年)2,200億円
アコーディア・ゴルフ(2021年)約4,000億円
かんぽの宿2021年
ホテルニューアカオ(熱海)2022年
フェニックスリゾート(宮崎・シーガイア)2024年
ホテル運営の中核だったマイステイズ・ホテル・マネジメントは、2025年7月1日にアイコニア・ホスピタリティ株式会社へ社名変更している。

かんぽの宿という名前に反応した方もいるだろう。
郵政民営化のときに国会まで巻き込んで議論された、あの資産である。

ここまでは本州の話だ。次が本題になる。

第3章|そして、石垣島

南ぬ島石垣空港国内線ターミナルの入口サイン。フサキビーチリゾートへは車で約25分の距離にある
南ぬ島 石垣空港。ここから車で約25分、島の西海岸に402億円の旗艦物件がある。(筆者撮影)

石垣島の西海岸に、フサキビーチリゾート ホテル&ヴィラズという大型リゾートがある。
398室、敷地面積10.8ヘクタール、ホテルの目の前に全長約1kmのビーチ。

このホテルには、402億円という値札が付いている。

2023年8月、ある投資法人が国内ホテル6物件を取得価格合計572.3億円で取得した。
フサキ1軒でその約70%を占める。同投資法人の資料には、こう明記されている。

資産規模(取得価格)において本投資法人ポートフォリオ最大の旗艦物件となる

日本のJ-REIT(上場不動産投資信託)が保有するホテルの中で、単体として最も高価な部類に入る1軒が、石垣島にある。

そして、石垣島にはもう1軒ある。

2019年、同じ投資法人が国内ホテル18物件を取得価格合計826億円で取得している。
財務局に提出された有価証券届出書には、その18物件の内訳が並ぶ。
ホテルマイステイズ札幌アスペン、ホテルマイステイズ富士山 展望温泉、そして「アートホテル石垣島」。

ISHIGAKI
2023年8月取得
フサキビーチリゾート ホテル&ヴィラズ
402億円
398室/敷地10.8ヘクタール/目の前に全長約1kmのビーチ
6物件572.3億円のうち約70%を占める
2019年取得
アートホテル石垣島
245室/18物件・取得価格合計826億円のパッケージに含まれる

運営会社も見ておく。
フサキを運営するのはアイランド株式会社、アートホテル石垣島を運営するのは株式会社琉球ホテルリゾート八重山である。

どちらも、フォートレスのグループ企業一覧に名前が載っている。

では、この2軒を買った投資法人とは何者なのか。

第4章|東証に、上場している

インヴィンシブル投資法人。東京証券取引所のコードは8963である。

2024年12月31日時点でホテル104物件を保有し、全J-REITのホテルポートフォリオの中で最大の資産規模を持つ。資産運用会社はコンソナント・インベストメント・マネジメント株式会社。

上場しているということは、誰でも買えるということだ。

石垣島の402億円の旗艦物件は、日本の個人投資家が証券口座から一口あたり数万円程度(時期により変動)で持分を持てる資産である。
目論見書も決算説明資料も鑑定評価も、すべて公開されている。

ここまでは、不思議なことは何もない。外資系ファンドがスポンサーのJ-REITは他にもある。

THE ASSET
402億円の「旗艦物件」は、
一泊いくらで泊まれるのか
資本の話をする前に、現物を見ておくのも悪くない。

ガーデンに広がる赤瓦のヴィラ、隣接する天然白砂のビーチ、島内最大級のプールエリア。
石垣空港から車で約25分。

投資家向けの資料には「敷地10.8ヘクタール、目の前に全長約1kmのビーチ」と書かれていた。
ただし、私が一番良かったと思ったのはプールのほうだった。
一休.comの宿泊ページに移動します。価格・空室状況は時期により変動します。

ここで、数字から離れて個人的な話を挟む。私はこのホテルのヴィラに泊まったことがある。

正直に書くと、そこまで高級だとは感じなかった。建物は古い。
402億円という数字を知ってから泊まったわけではないので、当時は何も思わなかったが、いま振り返ると
「日本のJ-REIT最大の旗艦物件」という言葉から想像する姿とは、少し違う。

実はこの印象、資料の側からも裏づけられる。
施設群の中で最も古いガーデンヴィラズは築年数が40年を超えており、ギリギリ新耐震以降だと指摘する分析がある。1982年開業のホテルなのだから、当然といえば当然だ。

では何が良かったのか。

プールである。海より、プールだった。

フサキビーチリゾート内のスプラッシュパーク。赤いバケツから大量の水が落ちる子ども向けの水遊び施設
敷地内のスプラッシュパーク。402億円の「旗艦物件」の実像は、こちらに近い(筆者撮影)

誤解のないように書いておくと、静かで洗練されたプールではない。子ども向けのスプラッシュパークがあり、バケツから水が落ち、歓声が上がっている。

だが、その横で大人がプールサイドで飲みながら一日を過ごすには、あれ以上の場所はそう多くない。子どもが勝手に楽しんでくれる場所というのは、実は最も贅沢な設備である。

402億円という値札は、建物の新しさに付いたものではない。10.8ヘクタールの土地と、あの時間の流れに付いている。

問題は、この資産運用会社を誰が持っているかである。

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第5章|東証の開示に、日本語でこう書いてある

2025年3月31日、インヴィンシブル投資法人は「不動産投資信託証券の発行者等の運用体制等に関する報告書」を提出している。

その中に、次の記載がある。

Fortress CIM Holdings L.P.の間接親会社に対する出資持分を2024年5月15日(米国東部標準時)付で、アラブ首長国連邦アブダビに本店を有する政府系投資家であるムバダラ・インベストメント・カンパニーの資産運用子会社であるムバダラ・キャピタル等に売却しており、その結果、ソフトバンクグループ株式会社ほかは特定関係法人に該当しないこととなりました

「アラブ首長国連邦アブダビに本店を有する政府系投資家」

これは私の表現ではない。
東京証券取引所に上場する投資法人が、日本語で、財務局に提出した書類に書いた言葉である。

異動の第一報は、その前年に出ていた。
2023年5月23日の開示によれば、当時ソフトバンクグループはこの資産運用会社の発行済株式の20%を直接保有する主要株主だった。
2024年7月18日の有価証券届出書にも、ソフトバンクグループが特定関係法人(親会社)に該当しなくなった旨が記されている。

ここまでの線を、一枚にまとめる。

CAPITAL LINEAGE
アブダビ政府
ムバダラ・インベストメント・カンパニー
ムバダラ・キャピタル
2025.04
TWG Global に100億ドル
└ ドジャース
└ チェルシーFC
└ キャデラックF1
レイカーズ(125億ドルで売却)
2024.05
フォートレス(68%)
└ コンソナント・インベストメント・マネジメント
└ インヴィンシブル投資法人【8963】
フサキビーチリゾート(402億円)
左右の枝は、同じ運用会社から出ている。
公開資料に基づくうさぎ技研作成。支配関係を示すものではない。

ここで、誤解のないように書いておく。

アブダビが石垣島のホテルを支配しているわけではない。
フォートレスの資本構成はムバダラ側が68%だが、取締役会の過半数を指名できるのは経営陣側であり、投資判断や運営の独立性は維持されるとされている。

さらに、ホテルの所有はJ-REIT、運営は日本法人、資本の上流にムバダラという3層構造になっている。

正確に言えば、こうなる。石垣島の2つの大型リゾートを所有しているのは東証上場のJ-REITであり、そのREITの資産運用会社の親会社の一部を、アブダビのソブリンファンドの運用子会社が持っている。

回りくどい。だが、この回りくどさこそが、この記事のテーマである。

第6章|移行の2か月後

時系列で気になる点が一つある。

2024年5月15日に親会社がアブダビへ移った。
その2か月後、2024年7月18日に、この投資法人は国内ホテル12物件の信託受益権取得を決定している。
取得価格の総額は1,044億円。アートホテル大阪ベイタワー、亀の井ホテル奈良、函館国際ホテルなどが並ぶ。

資本の上流が変わって2か月後に、1,000億円規模の買い増しが始まっている。

加速していると読むこともできる。もともと予定されていた案件だと読むこともできる。
どちらが正しいかを判断する材料は、公開されていない。

ところで、フサキの有価証券届出書には、こんな注記がある。

フサキビーチリゾートホテル&ヴィラズの目の前の全長約1kmのビーチには、ホテルの宿泊客以外も訪れることが可能であり、同ホテルの専用ビーチではありません

402億円で買えるのは、建物と土地である。この注記の意味は、最後にもう一度考える。

終章|売ったのは、日本企業だった

冒頭で、一番驚いたのは売った側だったと書いた。

2017年、ソフトバンクグループが約33億ドルでフォートレスを取得している。
当時の孫正義氏は、通信会社から世界最大級の投資グループへ変わろうとしていた。
同じ年にソフトバンク・ビジョン・ファンドが立ち上がっている。

その買収が完了した2017年12月27日、インヴィンシブル投資法人の資産運用会社の親会社に異動が生じたことが、開示されている。

そして2024年5月、ソフトバンクグループは手放した。

つまり石垣島のホテルの資本の上流は、独立系の米ファンドから日本企業へ、日本企業からアブダビへと、2回変わっている。

「外資が日本を買っている」という言い方は、半分しか当たっていない。

アブダビは、日本企業が手放したものを買っただけである。

売却理由についてソフトバンクグループ側の詳細な説明はなく、取引価格も非公表だ。
だから断定はしない。ただ、順番だけは確かである。日本企業が先に手放した。

ソフトバンクグループの純利益5兆円とOpenAI

では、なぜ誰も気づかなかったのか。

答えは単純だ。隠されていないからである。

PDFで公開されている。誰でも読める。ただ、ホテルの名前からは辿れない。
所有と運営と資本が3層に分かれているからだ。フサキビーチリゾートで検索しても、アブダビは出てこない。

そして最後に、あの注記に戻る。

402億円で買えたのは、建物と土地だった。目の前の1kmのビーチには、宿泊客でなくても入れる。
投資家向けの書類に、わざわざそう書いてある。東京の投資家に説明が必要だったのだろう。
沖縄では当たり前のことだから。

石垣島フサキビーチの入口に立つ「WELCOME TO FUSAKI BEACH」の看板。ホテル宿泊者以外も立ち入ることができる
フサキビーチの入口。看板には「WELCOME」とだけ書いてある。宿泊客限定とは、どこにも書かれていない。(筆者撮影)

ビーチの入口には、こんな看板が立っている。

WELCOME。

宿泊客限定、とは書いていない。

レイカーズは2兆円で売れた。石垣島の旗艦物件は402億円だった。

海だけは、まだ誰も買えていない。

今度あのビーチに行くときは、堂々と入ろうと思う。無料だ。


よくある質問

フサキビーチリゾートはアブダビが所有しているのですか?

いいえ。所有しているのは東証上場のインヴィンシブル投資法人(コード8963)です。同投資法人の資産運用会社の親会社であるフォートレスの株式の68%を、ムバダラ・キャピタル主導のコンソーシアムが2024年5月に取得しました。ただし取締役会の過半数はフォートレス経営陣側が指名し、運営の独立性は維持されるとされています。

石垣島のほかに沖縄でフォートレス系の施設はありますか?

本記事で公開資料から確認できたのは、石垣島のフサキビーチリゾート ホテル&ヴィラズとアートホテル石垣島の2軒です。沖縄本島や宮古島について、これらと同等に明確な大型案件は確認できませんでした。

レイカーズと石垣島は、どうつながっているのですか?

ムバダラ・キャピタルという同じ運用会社が、2024年5月にフォートレスの株式を取得し、2025年4月にはレイカーズを保有していたTWG Globalへ100億ドルを投じています。両者は別々の投資であり、資産同士に直接の関係はありません。

8963は投資対象としてどうですか?

本記事は資本の系譜を整理したものであり、投資判断を示すものではありません。分配金推移、NOI利回り、旗艦物件への集中リスク、施設の築年数といった投資判断の材料については、別途まとめる予定です。

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【免責】本記事で言及した出来事・数値は、インヴィンシブル投資法人の有価証券届出書・有価証券報告書・決算説明資料・運用体制等に関する報告書、フォートレス・インベストメント・グループおよびムバダラの公表資料、ESPN をはじめとする各国メディアの公開報道および市場関係者の公表分析に基づいています。因果関係やタイミングの一致について指摘した箇所は、公開されている事実関係から導かれるうさぎ技研の分析・見解であり、特定の個人・団体による違法行為や不正行為を断定するものではありません。資本関係に関する記述は公表されている出資比率・開示に基づくものであり、実質的な支配関係を示すものではありません。本記事は特定の金融商品の取得・売却を推奨するものではなく、投資判断はご自身の責任でお願いいたします。関係者・関係団体を誹謗中傷する意図は一切なく、事実と異なる点や誤りがあった場合は訂正・削除に応じます。

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