前回、旧沖縄三越跡地の再開発について書いてから約9か月が経ちました。
その間に、報じられたこと、報じられなかったこと、そして私が前回はっきり間違えていたことが出てきました。
そして2026年9月8日、計画の輪郭が一気に見えてきました。
沖縄タイムスによれば、大和ハウス工業が検討しているのは13階建ての商業ビル。バッグ・洋服・化粧品といった海外の有名ブランドをそろえた商業施設とホテルが入居し、2030年末の完成を想定しているといいます。
そして今月17日から、解体工事が始まります。
結論から言えば、あの場所が動き出したことは素直に嬉しい。
大和ハウス工業と第一交通産業の組み合わせなら、たぶんやってくれる。そういう期待感は本当にあります。
ただ、報道でくり返される「ハイグレードなホテル」という言葉だけは、県民として、そして元デベロッパーの関係者として、どうしても引っかかっている。
今回はそこを、数字と地面の話で検証します。
② 報道されない裏側 ── 地権者31人、決着まで3年
③ 「ここにも大和ハウス」──沖縄ホテル包囲網
④ 核心 ── 「ハイグレード」とは何を指しているのか
⑤ 報道されない裏側 ── むつみ橋、30年の反復
■ まず訂正します──あれは「山形屋」ではありませんでした
前回の記事で、私はこう書きました。「1950年に山形屋が現在の三越跡地へ移転し、1999年の閉店後にその建物を沖縄三越が引き継いだ」と。
これは誤りです。
一次資料に当たり直したところ、あの建物は1957年に「大越百貨店」として開館したものでした。
その後、沖縄三越となり、2014年9月末の閉店をもってデパートとしての歴史を閉じています。
一方の沖縄山形屋は、鹿児島にルーツを持ち、那覇で創業。戦争による店舗の焼失と再興を経て、1950年に独立、1955年に国際通りへ移転し、1999年8月31日に閉店しています。
ただし住所は那覇市牧志1丁目3-70。まったくの別物件でした。跡地には建物の解体を経て、ホテルJALシティ那覇が2006年6月20日に開業しています。
つまり、この敷地の系譜は「大越 → 沖縄三越」。山形屋は一度も入っていません。
ちなみに、多くの県民が記憶しているあの屋上遊園地。「人生で最初の行楽地が三越の屋上だった」という世代は多いと語られていますが、それも山形屋ではなく沖縄三越の屋上の話です。私はここも取り違えていました。
多分、若い頃の「ゲームイン那覇」(建物向かい)でのよくない記憶が、記憶を混乱させたのかもしれません(笑
間違いを訂正してお詫びします。
ネット上にも「山形屋=三越の前身」という記述はかなり出回っています。
だからこそ、一次資料に当たり直す作業には意味がある。
今回の続報は、その反省から始まっています。
そしてもうひとつ。この牧志1丁目3番という住所は、この記事の最後でもう一度出てきます。
山形屋が立っていた場所は、いま国際通りでいちばん動きが読めない街区と、同じ一画にあります。
前回記事はこちらです。該当箇所には訂正の追記を入れてあります。
■ 報道されない裏側①──地権者31人、決着まで3年
「大和ハウスが取得」「再開発へ」という見出しだけを見ていると、あっさり決まった話に見えます。
実際はまったく逆でした。
不動産専門メディアの報道によれば、第一交通産業グループ(と、グループで不動産再生を手がけるエフ・アール・イー)が交渉した地権者は31人。
前オーナーであるリウボウ商事との売買契約自体は、2022年6月の時点ですでに済んでいました。
それでも全員の合意にたどり着けなかった。理由は、一部の地権者に数次相続が発生していたことなど。
売買決済がすべて完了したのは2025年3月、契約から約3年後です。
交渉が必要だった地権者の数
売買契約から決済完了までに要した期間
敷地は、隣地の賃貸マンションなども含めて合計1,000坪超。
国際通りに面したこの規模の土地が、三越の閉店から10年以上も再開発に動けなかった。
2015年にエンターテインメント施設「HAPINAHA」が入って2017年に閉じ、残った飲食店も2025年3月で営業を終えています。それはなぜか。
よく「沖縄は再開発が遅い」「地元にやる気がない」と語られます。でも本当の理由は、そこではありません。
相続の層が厚すぎるのです。
戦後の混乱期に権利が細分化され、そのまま世代を重ねると、権利者は雪だるま式に増えていきます。
祖父の代の共有名義がそのまま孫の代まで来ていて、しかもその孫が県外に散っている──
沖縄の一等地では、まったく珍しい話ではありません。
31人という数字は、この土地に刻まれた戦後80年分の重さそのものです。
■ ここにも大和ハウス──沖縄ホテル包囲網
ところで、沖縄のホテルニュースを追っていると、最近やたらとこの社名を目にします。
整理してみたら、思っていたより本格的でした。
2026年9月解体着手 → 2030年末完成想定
旧沖縄三越跡地(国際通り)
敷地約3,300㎡(1,000坪超)。13階建て、海外の有名ブランドを集めた商業施設とホテルが入る複合ビルを検討中。
面白いのはBATON SUITEです。
大和ハウス工業は2023年に子会社だった大和リゾートを売却し、いったんリゾートホテル事業から撤退しています。
その後、独自ブランドとして立ち上げたのがこれ。
事実上の再参入であり、その第一号が沖縄・古宇利島だったわけです。
ビジネスホテルのダイワロイネットを全国展開しながら、リゾートに戻ってきて、その最初の一手を沖縄に打った。そして今度は国際通りのど真ん中。
包囲網、という言葉を使いたくなります。
開業日にスイートへ泊まった話
ここで自分の話を少しだけ。
私はラ・ジェント・ホテル沖縄那覇の開業日に、スイートルームに宿泊しています。
良いホテルでした。開業日特有のバタつきを差し引いても、設備も動線も丁寧に作られていた。
大和ハウスがホテルを「建てられる」会社であることは、身をもって理解しています。
ただ、私の物差しでは「ハイグレード」ではありません。
これは悪口ではなく、言葉の定義の話です。
良いホテルであることと、富裕層が指名して泊まりに来るホテルであることは、まったく別の指標なので。
■ 核心──「ハイグレード」とは、何を指しているのか
今回、いちばん引っかかっているのがこの部分です。
報道によると、土地の95%を大和ハウス工業沖縄支店が取得し、残り5%を第一交通産業グループが引き続き保有。
新施設は両社の共同運営となる予定です。
沖縄タイムスが2025年12月24日付で伝えた取得のニュースでは、国際通りの課題として、土産店や飲食店は充実している一方で富裕層が安心して滞在できるハイグレードなホテルが少ない、という認識が示されていました。
さらに同31日付の支店長インタビューでは、「商業施設機能を備えた高品質なホテル」という構想が語られています。
課題認識としては、完全に正しい。
ただ、そこから先を検証している記事を、私はひとつも見かけませんでした。
3点だけ、地元の人間として並べておきます。
検証(1):そもそも「ハイグレード」に定義がない
国際通り周辺には、すでに「上質」を掲げるホテルが密集しています。
- Southwest Grand Hotel 那覇 国際通り(2023年6月開業・87室)
- ハイアット リージェンシー 那覇 沖縄
- ホテル コレクティブ(2020年開業・260室)
- ホテルモントレ ラ・スール那覇(2026年4月リブランド・223室)
どこも良いホテルです。でも、では県内で「ラグジュアリー」と呼ばれているのはどこか。
ザ・リッツ・カールトン沖縄。ハレクラニ沖縄。ザ・ブセナテラス。
そして2027年第4四半期に開業予定のフォーシーズンズ沖縄。
ほぼ全部、リゾート立地です。
「ほぼ」と書いたのは、那覇市内にも一軒だけ、私が認めるホテルがあるからです。
おもろまちの静かな一角に建つ、全145室のホテル。派手さはまったくありません。
でも、車を着けてから部屋に入るまでの一連の流れ、スタッフとの距離感、時間の流れ方が、明確に他と違う。
那覇で「ハイグレード」と呼んでいいのは、私の物差しでは今のところここだけです。
そして重要なのは、ここが國場組のグループだということ。
県外資本ではなく、沖縄の企業が、沖縄で唯一これを成立させている。
裏を返せば、それだけ難しいということでもあります。
那覇という都市が数十年かけて生み出した「ハイグレード」は、たった一軒。
つまり「那覇でハイグレードは成立しない」のではありません。成立させた例が一軒しかないのです。
だからこそ二軒目のハードルがどれほど高いか、報道はもう少し丁寧に検証してもよかったのではないか、と思っています。
余談:私が國場組に期待している、もうひとつの理由
ここからは完全に私見です。
恩納村のフォーシーズンズ沖縄を開発しているのは、マレーシアのベルジャヤ・コーポレーションです。
そしてこの会社には、前例があります。
フォーシーズンズホテル京都。
ベルジャヤは2016年に開業させたこのホテルの信託受益権を、2020年2月、開業わずか約3年半で合同会社ティグレへ490億円で売却しています(17年のリースバック契約付き、同年3月完了)。
会長のヴィンセント・タン氏自身が、これだけ若い物件を大きな利益で手放せたことを歓迎する趣旨のコメントを出していました。
つまりこの会社にとって、ホテルは「持ち続ける資産」ではなく「作って、値がついたら売る資産」である可能性が高い。
もし恩納村でも同じことが起きたとき、次の担い手が誰になるのか。私は國場組の名前を挙げたい。
那覇で唯一「ハイグレード」を成立させた実績が、すでにあるからです。
あくまで私の願望を多分に含んだ見立てですが、この視点はNOTEの有料記事でも書きました。
検証(2):あの一等地で、路面が5年9か月埋まらなかった
これは数字で言えます。
ホテル コレクティブは2020年1月、国際通りのど真ん中に開業しました。
台湾資本によるプロジェクトで、運営母体は台湾証券取引所に上場する嘉新水泥(Chia Hsin Cement)グループ。
1954年創業の老舗で、不動産やヘルスケアも手がける企業です。
資本も規模も、まったく本気の案件でした。それでも。
ホテル コレクティブの国際通り側の路面区画が埋まるまでにかかった時間。2020年1月の開業から、GODIVA cafe が入居する2025年10月まで。
2025年10月7日、ゴディバカフェの九州(沖縄)初出店として「GODIVA cafe Okinawa Hotel Collective」が路面店でオープンしました。良いニュースです。
でも裏を返せば、国際通りの一等地・大型ホテルの1階路面店という条件でも、ハイブランドが決まるまでに6年近くかかったということでもある。
「国際通り=高級ブランドが自然に集まる場所」ではまだない。これは希望的観測ではなく、実績値の話です。
そして今回、大和ハウスが構想しているのはその海外有名ブランドを1棟に集めた商業施設です。
バッグ、洋服、化粧品。1区画に5年9か月かかった通りで、それを何区画も同時に埋める。
できたら本当にすごい。ただ、簡単な話ではないことは、数字が示しています。
検証(3):そこに、車が着けられるのか
そして、たぶんこれが最大の論点です。
国際通りは、慢性的な交通渋滞と駐車場不足が長年の課題として指摘され続けてきた通りです。
地元客の足が遠のいた理由としても、繰り返し挙げられてきました。
さらに日曜日はトランジットモールで歩行者天国になります。
その時間帯、跡地に車で近づけるルートは、隣接する平和通り方面などに限られる。
平和通りを歩いたことがある方なら、わかると思います。
あそこを高級車が抜けてくる画は、地元の人間にはどうしても浮かびません。
富裕層が本当に金を払っているのは、部屋の広さでも家具のブランドでもない。
到着した瞬間の体験(アライバル)です。ドアマンが待つ車寄せに静かに滑り込む、あの数十秒に払っている。
ただ、公平のために書いておくと──不可能ではありません。
先ほど挙げたホテル コレクティブは、交通量の多い国際通りに面しながら、車寄せを建物の奥に設け、立体式に加えて地下の自走式駐車場まで備えています。 レンタカー利用の多い沖縄で、これは相当な価値です。
つまり問いは、こう絞れます。
しかも今回は13階建て。低層に海外ブランドの商業施設、その上にホテルという構成なら、
買い物客の動線と、宿泊客のアライバル動線を、同じ敷地で分けなければなりません。
1,000坪という数字は、そう考えるとけっして余裕のある広さではない。
あの1,000坪の形状で、車寄せは取れるのか。
ブランド名でも、階数でも、客室数でもない。建築計画のお知らせ看板に、ポルトコシェール(車寄せ)がどう描かれているか。「ハイグレード」を名乗れるかどうかは、それ一点にかかっています。
■ 報道されない裏側②──むつみ橋、30年の反復
もうひとつ、同じ国際通りで動いている話があります。こちらはほとんど報じられていません。
2025年、国際通りと沖映通りが交わるむつみ橋交差点の一角を、全国でカラオケ館を展開するB&V(東京)の子会社・日本商事が取得していたことが明らかになりました。
用途については、まだ何も決まっておらず、あらゆる方向性を検討中──というのが同社のコメントです。
ここ、牧志1丁目3番地区といいます。
そう、冒頭の訂正で出てきた住所です。沖縄山形屋が1955年から1999年まで立っていたのが、この街区でした。
那覇のデパート史のもう片方の主役がいた場所が、いままた宙に浮いている。
そして、この場所には前史があります。
2015年、幻の「ダブルタワー」構想
2015年、地権者9人でつくる市街地再開発準備組合が、高層複合ビルの建設計画を発表しました。
ゼネコンの五洋建設や國場組も参画し、2022年の完成を目指していた計画です。
ちなみにこの國場組、さきほどザ・ナハテラスで名前が出た地元企業です。
内容が、なかなか壮大でした。
- 2棟構成の「ダブルタワー」
- 北側(むつみ橋交差点に接する側)は地上20階・地下1階。1〜3階が商業施設、4〜20階に分譲マンション約100戸
- 地下から入庫する約120台収容の立体駐車場
- 南側は「ホテル山の内」を取り壊し、1〜3階を商業施設、4階から上をホテルに
- 2棟合わせて約30テナントを想定
そして2020年10月、この計画は白紙に戻りました。
地権者同士の協議が事実上決裂し、計画の中心にいた土地所有者が石垣市の不動産会社「八重島総合開発」へ土地を売却。同社側は、停滞した計画を進めるのは無理がある、という趣旨のコメントを残しています。
そこから約4年半を経て、2025年3月下旬に日本商事へ渡った。それが今回のニュースです。
新聞が書かない、もうひとつの理由
報道が挙げる頓挫の理由は、いつも「地権者の分裂」です。それは事実でしょう。
ただ、私はもうひとつの理由を知っています。地面の下です。
あのあたりには、ガーブ川が流れています。正確には、流れていました。
「ガーブ」という名前の由来は、湿地を意味する「ガーブー」とされています。名前がそのまま地質を語っている。
大雨のたびに浸水被害が発生していたため、治水対策として1963年に着工し、1965年までに暗渠化されました。
その上に建てられたのが、市場本通りとむつみ橋通りの間に今も残る「水上店舗」です。
ガーブ川は現在、行政上は河川ではなく公共下水道の雨水施設(排水路)として扱われることもあります。
つまり、あの地下には暗渠のカルバートと、湿地由来の地盤がある。
ここで、さっきの2015年計画をもう一度見てください。
「地下から入庫する、約120台の立体駐車場」
湿地に由来し、1965年に暗渠化された排水路が走る一帯で、地下を掘る計画だった。
そして白紙になった。
私は以前、元デベロッパーの関係者として、この一帯の話に触れる立場にいました。
近隣ホテルのリニューアル案件を含め、あのエリアの計画は消えては出て、消えては出てを繰り返してきた。
かれこれ30年近く、同じことが起きています。
地権者の合意形成は、たしかに難しい。でも合意が取れても、その次に地面の下が待っている。
だからコストが跳ね上がり、事業採算が合わなくなり、静かに消えていく。
国際通りが「奇跡の1マイル」と呼ばれながら、この30年ほとんど姿を変えなかった本当の理由は、たぶんこの二重構造にあります。
■ まとめ:期待している。だから、言葉を疑う
ここまで厳しめに書いてきましたが、誤解しないでいただきたい。
私は、この計画に期待しています。
31人の地権者を3年かけてまとめ切った第一交通産業と、国内屈指の開発力を持つ大和ハウス工業。
この組み合わせなら、たぶんやってくれる。那覇バスターミナルという前例もある。
ただ、正直に言えば「また県外のデベロッパーか」という寂しさもあります。
国際通りの心臓部を、県外資本が設計する。そこに違和感がまったくない、とは言えません。
そのうえで、私の判定基準を先に書いておきます。
アンダーズ、アマン、エディション。
このクラスを持ってこられたら、私は「ハイグレード」と認めます。
逆に言えば、それ以外なら「良いホテル」であって「ハイグレード」ではない。
そこは、言葉を正確に使いたい。
この基準はハードルが高いように見えて、実はそうでもありません。
ホテルの格を決めるのは客室単価ではなく、そのブランドがその土地に何を要求するかだからです。
アマンなら、静けさを要求する。
エディションなら、街との接続を要求する。
アンダーズなら、ローカルの文脈を要求する。
どのブランドも、国際通りに対して「今のままでいいですよ」とは絶対に言いません。
つまり、本物のブランドが入るということは、通りそのものが変わることを意味する。
逆に言えば、通りが変わらないなら、入らない。
解体は2026年9月17日から。完成の想定は2030年末です。
あと4年ちょっと、この場所は工事現場になります。
次の続報は、その現場からになります。
建築計画のお知らせ看板が立ったら、見に行きます。階数でも、延床面積でも、ブランド名でもなく──
車寄せがどこに描かれているか。 私が確かめたいのは、それだけです。
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国際通りが変わる前に、泊まっておく
解体が終われば、あの一帯の景色はしばらく工事現場になります。
今の国際通りを楽しむなら、動き出す前の数年が最後のタイミングかもしれません。
ダイワロイネットホテル那覇国際通り
牧志駅からデッキ直結。今回の再開発を主導する大和ハウスが、国際通りで何をやってきたのかを実際に確かめられる一軒です。2025年2月のリニューアルで51室を増設。
空室と料金を見る >by USAGI GIKEN
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