2026年9月18日、米バークシャー・ハサウェイ(Berkshire Hathaway:保険・鉄道・電力から菓子まで抱える米国の巨大複合企業)が、ウォーレン・バフェット氏(96)の会長退任を発表しました。
後任は息子のハワード・バフェット氏(71)です。
「で、ハワードって誰?」――おそらく日本の投資家の9割がそう思ったはずです。無理もありません。
本人は投資家ではなく、農家で、元保安官で、ウクライナ支援に1,600億円超を投じた慈善家。
しかも交代劇の数カ月前には、父ウォーレンが長年の盟友ビル・ゲイツの財団への寄付を打ち切るという、日本ではほとんど報じられていない”事件”も起きていました。
この記事では、英語の一次資料をもとに「ハワードは何者か」「なぜ今なのか」「三菱商事など日本のバフェット銘柄はどうなるのか」を、できるだけわかりやすく整理します。
あわせて、同じ「保険のお金」で帝国を築きながら、いま米当局の捜査で揺れるドジャースのオーナー、マーク・ウォルター氏との対照的な姿にも触れます。
- ウォーレン・バフェットは会長を退き「名誉会長」に。取締役には残る。
- 新会長ハワードは経営も投資判断もしない「企業文化の番人」。経営はCEOのグレッグ・アベルが続投。
- 日本の5大商社株について、アベルは「数十年保有」「買い増しも」と明言。方針は今のところ変わらない。
今回の交代劇に米メディアでコメントを寄せたカニンガム教授がまとめた、バフェット本人の「株主への手紙」の決定版。ハワードが守る”文化”の中身は、ここに全部書いてあります。
『バフェットからの手紙 第5版』の価格を見る →何が起きた?9月18日の発表を30秒で
バークシャーの発表によると、ウォーレン・バフェットは即日付で会長を退任し名誉会長(Chairman Emeritus)に就きました。取締役会には残り、引き続き意見は述べます。
1965年に経営権を握り、1970年から会長を務めてきたので、会長在任はじつに56年です。
CEO(最高経営責任者)の座は、すでに2025年末でグレッグ・アベル氏(カナダ出身。バークシャーのエネルギー子会社で30年以上経営に携わってきた実務家)に譲っています。
つまり今回で、「経営」と「会長」の両方のバトンが渡り終えたことになります。
「経営はアベル、文化はハワード」――3人の役割分担
ウォーレンは株主への手紙で、新体制をひと言でこう表現しました。
「グレッグが会社を動かし、ハワードは文化と価値観を守る」
役割を並べるとこうなります。
経営・投資・M&Aの最終判断。商社株を「持つか売るか」を決めるのはこの人。
非執行の会長。日々の経営にも銘柄選びにも関与せず、「バークシャーらしさ」が壊れないよう取締役会を束ねる。
名誉会長として取締役に残留。今も約1,450億ドル(約23兆円)分を持つ筆頭株主。
そしてウォーレンは、息子の役割をこう例えています。
「ハワードは、株主が保有し、使わずに済むことを願う保険証券だと思ってほしい」
保険で財を成した男らしい、実に皮肉の効いた紹介文です。
つまり「何事もなければ出番はない。でも何かあったときのための最後の砦」という意味です。
なぜ今?バフェットの手紙から読む退任理由
理由①:アベルが「空高い期待」を超えた
手紙で挙げられた理由の筆頭はアベルです。
「彼への期待は最初から空高かったが、それを上回った」「重要な決定はしばらく前から彼が下しており、私は一度も考え直す必要がなかった」。だから「移行を完了するタイミングは今だ」と。
裏を返せば、会長職に残っていたのは「アベルが本当に大丈夫か」を見届けるための保険期間だった、ということです。9カ月の試運転を経て、合格印が押されたわけですね。
理由②:「時の翁には勝てない」――96歳の前兆
もうひとつは、本人も隠していない年齢です。
96歳の誕生日を家族と祝ったこと、そのなかに1歳になったばかりのひ孫がいて「最近は私より彼のほうが少し速く動く」と書いています。
そして締めくくりは「Father Time always wins(時の翁は必ず勝つ)」。
前兆はありました。
今年は恒例の年次書簡の執筆をアベルに譲り、5月の株主総会では壇上に上がらず、テレビのインタビューでは脚を骨折したことも明かしていました。
ひ孫のハイハイに抜かれたと自分で書ける96歳は、やはりただ者ではありません。
日本ではほぼ報じられない「ビル・ゲイツとの決別」
会長交代を読み解くうえで外せないのが、2026年7月の出来事です。
ウォーレンは毎年恒例の自社株寄付から、ビル・ゲイツの財団(ゲイツ財団)を外しました。
ウォーレンは2006年、ゲイツ財団へ「生涯にわたって」株を寄付し続けると約束し、これまでに470億ドル(約7.5兆円)超のバークシャー株を贈ってきました。
ところが、故ジェフリー・エプスタイン氏(性犯罪で有罪判決を受けた米国の富豪)とゲイツ氏の交流が明るみに出たことを受け、財団が依頼した外部調査の結果が出るまで寄付を保留。
最終的に今年の寄付先から外したのです。
3月のCNBCのインタビューでは、問題発覚以降ゲイツ氏とは「まったく話していない」と語っていました。
なおゲイツ氏は米下院の委員会で、エプスタイン氏との付き合いを「重大な判断の誤り」と認めつつ、犯罪行為を見たり関与したりしたことはないと述べています。
代わりに寄付先となったのは、3人の子ども(スーザン、ハワード、ピーター)が運営する4つの家族財団。
約60億ドル(約9,600億円)分の株が贈られ、さらにウォーレンは「残りの株もすべて2034年12月31日までに4財団へ寄付する」と宣言しました。
約1,400億ドル(約22兆円)という途方もない資産の”出口”を担うのは、ハワードたち子どもです。
つまりハワードは、バークシャーの会長であると同時に、父の資産を世の中に配り切る実行役の一人でもある。
会長交代は単なる人事ではなく、「バフェット家の終活」の総仕上げとして見ると、ぐっと輪郭がはっきりします。
ハワード・バフェットとは何者か?異色すぎる経歴
- 1993年からバークシャー取締役(在任33年)
- 1999年からハワード・G・バフェット財団の会長兼CEO
- イリノイ・ネブラスカで農場を経営する現役の農家
- 元イリノイ州メイコン郡保安官(2017〜18年)、共和党員
- 元コカ・コーラ、コナグラ、ADMなどの社外取締役
- 訪問国は150カ国超。国連世界食糧計画の親善大使も務めた
名前に刻まれた「祖父」と「師匠」
まず名前から。ファーストネームの「ハワード」は、ウォーレンの父で米下院議員を務めたハワード・バフェットから。
そしてミドルネームの「グレアム」は、ウォーレンの投資の師、ベンジャミン・グレアム(「バリュー投資の父」と呼ばれる経済学者・投資家)に由来するとされています。
生まれた瞬間から「政治家の祖父」と「投資の師匠」を背負わされた男が、最終的に会長の椅子に座る。
ドラマの脚本なら「伏線がわかりやすすぎる」とボツにされそうな話です。
トラクターに乗る億万長者――不耕起農法の伝道師
ハワードの本業は、今も昔も農業です。
イリノイ州中部で1,500エーカー(約600ヘクタール)の家族農場を経営し、ネブラスカにも400エーカーの農場を持ち、財団の研究農場は3州で約9,500エーカーに及びます。
自らトラクターに乗る”本物の農家”で、土を耕さずに作物を育てる不耕起農法の長年の提唱者でもあります。
2011年、米CBSの番組「60 Minutes」で会長職の後継を打診されたとき、ハワードの返事は「農業を続けられるなら」。世界有数の企業の会長職より、畑を優先する条件を出したわけです。
今回の就任にあたっても、世界中を飛び回る慈善活動と自分の農地を耕す日常が大きく変わることを自覚していると語っています。
保安官バッジと、メキシコ国境の牧場
日本の報道がほぼ触れないのがここです。
ハワードは2017〜18年、イリノイ州メイコン郡の保安官(米国の郡の警察トップ。多くは選挙で選ばれる)を務めました。その前にはネブラスカ州ダグラス郡の郡政委員も経験しています。
さらにアリゾナ州南東端のコチース郡(メキシコと国境を接する郡)にも牧場を持っています。
フェニックスの独立系週刊紙「フェニックス・ニュータイムズ」の調査報道(2019年)によると、2016年初頭までに国境に約7マイル(約11km)接する牧場を2つ所有し、郡の保安官事務所などへ約3,000万ドル(約48億円)を寄付。無給・法執行権限なしながら「副司令官」の肩書きまで与えられていたといいます。
同紙はこれを、父の資金を原資とした”私的な国境警備”だと批判的に報じました。
一方、財団側は国境取締りが目的だという見方を否定し、牧場での植生管理などは外来植物の駆除と水資源の保全のためだと説明しています。
評価は分かれますが、少なくとも「温厚な慈善家」という一言では片付かない人物であることは確かです。
ハワードには、メキシコ国境と米国の薬物問題をテーマにした著書もあります。
ADM副社長時代――映画『インフォーマント!』と味の素の意外な接点
ハワードはかつて、米穀物大手ADM(アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド:穀物・食品加工の巨大企業。いわゆる”穀物メジャー”の一角)で副社長を務め、1995年半ばに退社しています。
このADM、1990年代に飼料添加物「リジン」などの国際価格カルテル事件の舞台となった会社です。
社内の幹部がFBIの情報提供者として3年間も会議を隠し撮りしていたという、嘘みたいな実話で、のちにマット・デイモン主演の映画『インフォーマント!』(2009年)になりました。
そして日本の読者にとって見逃せないのが、この事件では味の素の役員も起訴対象に含まれていたことです。
念のため強調しておくと、ハワード本人は起訴対象に入っていません。
ただ、事件の渦中の会社に同時期に在籍していたという事実は、「カルテルがどう組織を腐らせるか」を内側から見た経験として、今回の「企業文化の番人」という役割に妙な説得力を与えています。
ウクライナに1,600億円超――戦地に通う慈善家
ハワードの財団は、食料安全保障、紛争の緩和、人身取引の撲滅を主な活動分野にしています。
とくに目立つのがウクライナ支援で、2022年のロシアによる全面侵攻以降、10億ドル(約1,600億円)超の支援を約束しています。
自ら現地に足を運ぶタイプの慈善家で、「小切手を切って終わり」ではないのが特徴です。
父からの宿題「30億ドルで何をする?」
2006年、ウォーレンは息子にこう問いかけました。「もし30億ドル(当時のレートで約3,500億円)を渡されたら、世界のために何をする?」。
この問いに対するハワードの答えをまとめたのが、2013年の著書『40 Chances: Finding Hope in a Hungry World』です。
タイトルの「40」は、農家が一生のうちに作付けできる回数がおよそ40回しかない、という意味。
人生で試せるチャンスは思ったより少ない、だから一回一回を無駄にするな――という、農家らしい時間感覚の人生論です。
序文は父ウォーレンが書き、共著者はハワードの息子ハワード・W・バフェット。
日本語訳は出ていないので、ハワードの思考回路を知りたいなら英語版に当たるしかありません。
なぜ「投資のプロ」ではなく息子なのか?
「結局は世襲じゃないか」という疑問はもっともです。ただ、これは突然の親バカ人事ではありません。
ウォーレンは2011年の時点で、ハワードを将来の非執行会長にしたいと公言していました。
戦略を指図したり銘柄を選んだりはせず、価値観を守る役として、です。
バークシャー研究の第一人者で、米デラウェア大学ワインバーグ・センター(企業統治の研究機関)所長のローレンス・カニンガム氏も、「ウォーレンがハワードを後任に推薦することは、ずっと前から発表されていた」と指摘しています。
ウォーレン自身も手紙で、ハワードは33年の取締役経験を積んでおり、「34歳で経営を引き継いだ私より長い見習い期間を務めた」と書いています。
ポイントは、バークシャーの”強さ”の源泉が、銘柄選びの腕だけではなく「子会社の経営者に任せきる」「株主を共同経営者として扱う」「目先の利益で魂を売らない」といった独特の文化にあることです。
天才投資家がいなくなった後、この文化を外部の株主圧力や短期志向から守るには、「お金で動かない人間」を会長に置くのが一番――というのが、ウォーレンの設計思想なのです。
その”文化”の中身を知るなら、カニンガム教授がバフェットの株主への手紙をテーマ別に編んだ『バフェットからの手紙 第5版』が最短ルートです。
ハワードが守ろうとしているものが、本人の言葉でそのまま書かれています。
ウォーレン・バフェットの功績を5分で
バフェットが1965年に手に入れたのは、衰退しつつあった米国の繊維会社でした。
それを保険を軸にした複合企業へ作り替え、時価総額1兆ドル(約160兆円)を超える、テック企業以外でほぼ唯一の”1兆ドルクラブ”の一員に育て上げました。数字で見ると、その異常さがわかります。
保険会社が受け取った保険料を支払いまでの間に運用する「フロート」という仕組みを、世界で最もうまく使った人物。
コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、アップルといった名門株の長期保有。
そして米国経済そのものへの揺るがない楽観。投資の世界で彼を超える実績を残した経営者は、まだいません。
資産は約23兆円、それでも「世界一寛大な富豪」
みんなが一番気になる数字も見ておきましょう。
米フォーブスのリアルタイム推計によると、ウォーレンの資産は1,446億ドル(約23.1兆円、2026年9月18日時点)。世界の富豪ランキングで第10位です。
今月発表された米国の長者番付「フォーブス400」の2026年版でも10位に入っています。
ただ、本当にすごいのは「持っている額」より「手放した額」のほうです。
フォーブスが毎年選ぶ『米国で最も寛大な慈善家トップ25』の2026年版で、ウォーレンは生涯寄付額683億ドル(約10.9兆円)で堂々の1位。
これは資産の約32%にあたり、同ランキングの集計が始まった2021年から6年連続の首位です。
2位はビル・ゲイツとメリンダ・フレンチ・ゲイツ、3位はアマゾン創業者ジェフ・ベゾスの元妻で、驚異的なスピードで寄付を続けるマッケンジー・スコット。
フォーブスのプロフィールでは、その後の寄付も含めて累計720億ドル(約11.5兆円)超に達したとされています。
フォーブスのプロフィールには、日本ではあまり知られていない小ネタも載っています。
11歳で初めて株を買い、13歳で初めて確定申告をしたこと。
そしてハーバード・ビジネススクールに不合格になり、代わりにコロンビア大学で経済学の修士号を取ったこと。そのコロンビアで出会ったのが、師匠ベンジャミン・グレアムでした。
ハーバードに落ちていなければ、息子の名前は「ハワード・グレアム」ではなかったかもしれません。
人間バフェットをもっと知りたいなら、5年間の密着取材から生まれた唯一の公認伝記『スノーボール』がおすすめです。雪だるまが坂を転がるように資産が膨らむ”複利”の比喩がタイトルの由来。
少年時代のガム売りから、家族との複雑な関係まで赤裸々に描かれていて、ハワードが「父の会社」をどう見て育ったかも垣間見えます。
保険で築いた男、保険で揺れる男――ドジャースのオーナー、マーク・ウォルターとの接点
バフェットの功績を「保険のお金をどう使ったか」という角度から見ると、いま米国で最もお騒がせな投資家の一人と、くっきり対照的な姿が浮かび上がります。
大谷翔平選手が所属するドジャースの筆頭オーナーで、キャデラックF1チームの仕掛け人でもあるマーク・ウォルター氏(米資産運用会社グッゲンハイム・パートナーズのCEO。
ブルームバーグの推計で純資産約166億ドル=約2.7兆円)です。

直接の接点はあるのか?
先に結論を書いておくと、バフェット家やバークシャーとウォルター氏との間に、共同投資や取引関係は確認できません。
ただ、二人には決定的な共通点があります。
どちらも「保険会社に集まるお金」を投資のエンジンにして帝国を築いたことです。
そして2026年の夏、片方は後継体制を完成させて静かに一線を退き、もう片方は保険会社をめぐる連邦当局の捜査のさなかで保有資産を次々と手放している。同じ道具を使った二人の、あまりにも対照的な「引き際」です。
同じ「フロート」、真逆の使い方
バフェットが使ったのは、自動車保険のガイコなど損害保険のフロートです。
保険料を先に受け取り、事故の支払いは後から。その間の資金を、コカ・コーラやアップルなど外部の優良企業に投じてきました。
しかもバークシャーの保険子会社は、規制が求める水準を大きく上回る資本を積んできたことで知られています。
一方のウォルター氏が支配するのは、デラウェア・ライフやクリア・スプリング・ライフといった生命保険・年金保険会社です。
主に個人の老後資金を年金保険(アニュイティ)として預かり、その資金をプライベート・クレジット(銀行を通さない企業向け融資)などで運用してきました。
問題視されているのは、その運用先がウォルター氏自身の関連企業だったのではないか、そしてそれがきちんと開示されていたのか、という点です。
経緯を整理します。報道によると、2025年9月にはFBIがシカゴでプライベート機の機内にて令状を執行し、ウォルター氏の携帯電話とパソコンを押収。
2026年2月には、デラウェア・ライフとクリア・スプリングに大陪審の召喚状が届きました。
その後の社内調査で、デラウェア・ライフは関連会社向けの投資比率を3%から42%へと大幅に訂正しています。
格付け会社AMベストは両社の見通しを「ネガティブ」に引き下げ、8月には米地銀のトゥルーイストとフィフス・サードが同社商品の販売を一時停止しました。
公平のために書いておくと、ウォルター氏側の持株会社TWGグローバルは「不正は一切ない」と表明しており、保険会社は州の保険当局と関連資産の解消計画を進めています。
現時点で、ウォルター氏や保険会社が刑事訴追されたわけではありません。
ドジャース買収にも保険マネー、そしてレイカーズとチェルシーの売却
火の粉は、日本のファンにとって身近なドジャースにも及んでいます。
ウォルター氏らが2012年に21.5億ドル(当時のレートで約1,700億円)でドジャースを買った際、その資金の相当部分がグッゲンハイム系の保険会社から出ていたと、米メディアが改めて報じているのです。
保険会社からの拠出額については、ロサンゼルス・タイムズの分析をもとに12億ドル超とする報道がある一方、ウォール・ストリート・ジャーナルは少なくとも3億ドルと推計しており、数字には幅があります。
なお、ドジャースやレイカーズという球団そのものが不正を問われているわけではありません。
そして2026年夏、ウォルター氏は保有資産の整理に動きました。
8月には、取得から1年足らずのNBAレイカーズの支配株を、球団評価額125億ドル(約2兆円)でジョシュ・クシュナー氏(米ベンチャー投資会社スライブ・キャピタル創業者)とボブ・アイガー氏(元ディズニーCEO)に売却することで合意。
TWG側は「1年足らずで25%のプレミアム。投げ売りなどではない」と反論しています。
9月16日には、英プレミアリーグのチェルシーの持ち分(約12.8%)も、筆頭株主の米投資ファンド、クリアレイク・キャピタルに売却すると発表されました。
同じく持ち分を手放したトッド・ボーリー氏(ドジャースの共同オーナー)と合わせて、受取額は9億5,000万ポンド(約2,000億円)と報じられています。

だから「保険証券」という言葉が効いてくる
ここで、ウォーレンが息子を「株主が持つ保険証券」と表現したことを思い出してください。
保険会社に集まるお金は、突き詰めれば他人のお金です。
それを自分の帝国のために使うのか、預けた人のために規律をもって運用するのか。その差を分けるのは、商品設計でも運用手法でもなく、組織の文化です。
バフェットは1991年、不祥事に揺れた米証券ソロモン・ブラザーズの暫定会長として議会に呼ばれた際、「会社のお金を失っても理解はするが、会社の評判をわずかでも損なえば容赦しない」という趣旨を語りました。
今回、ハワードに託されたのは、まさにこの「評判を守る規律」です。
ウォルター氏の一件は、それが崩れたとき何が起きうるかを、図らずも同じ夏に見せてしまったと言えるかもしれません。
日本のバフェット銘柄は今後どうなる?
日本の投資家にとって一番気になるのはここでしょう。
結論から言うと、今回の会長交代で日本株の方針が変わる可能性は低いです。理由を順番に見ていきます。
5大商社:アベルが「数十年保有」を明言
バークシャーは2019年から日本の5大商社株を買い始め、2025年末時点で各社の株を9〜11%ずつ、合計約350億ドル(約5.6兆円)分保有しています。最大は三菱商事で、保有比率10.8%、約92億ドル(約1.5兆円)です。
- 8058 三菱商事 保有約10.8%(5商社で最大)
- 8031 三井物産 保有 各社9〜11%
- 8001 伊藤忠商事 保有 各社9〜11%
- 8053 住友商事 保有 各社9〜11%
- 8002 丸紅 保有 各社9〜11%
- 8766 東京海上HD 2026年3月に約2.5%取得(新顔)
9月初めに来日したアベルは、日経新聞のインタビューなどで5商社株を「数十年」保有する方針を明言し、さらに買い増す可能性にも触れました。
これを受けて9月3日には5社そろって上昇し、三菱商事は一時5.4%高に。
9月17日には伊藤忠の岡藤正広会長も、アベルとの会談を踏まえて「長期保有に加え、買い増しも検討しているようだ」と述べています。
つまり、日本株の「司令塔」はすでにアベルに移っていて、そのアベルが会長交代の2週間前に日本で”続投宣言”をしていたという順番です。タイミングとしては、むしろ安心材料と言えます。
新しいバフェット銘柄・東京海上
意外と知られていないのが、2026年3月に加わった東京海上ホールディングスです。
バークシャーの再保険子会社ナショナル・インデムニティが、約2,874億円(約18億ドル)で2.49%を取得し、戦略的提携を結びました。
再保険(保険会社のための保険)で協力し、M&Aでも組む内容で、市場で買い増して9.9%まで引き上げる余地もあります。発表翌日、東京海上の株価は前日比17%高と急騰しました。
この案件を主導したのは、バークシャーの保険部門を率いる副会長アジット・ジェイン氏(ウォーレンが「私より保険を知っている」と評してきた人物)です。
商社が「バフェット時代の遺産」なら、東京海上は「アベル時代の最初の日本株」と見ることもできます。
ハワード就任の影響が「限定的」な理由
ここまで見てきたとおり、ハワードは投資判断に関与しない非執行の会長です。
商社株を売るか買うかを決めるのはアベルで、そのアベルは長期保有を明言済み。
ハワードの就任そのものが日本株の売り材料になる筋道は、今のところ見当たりません。
本当のリスクは「バフェット・プレミアム」の剥落
気をつけるべきは、むしろバークシャー本体の評価です。
同社株は年初来1.3%高にとどまり、S&P500の11.6%に大きく負けています。
ウォーレンのCEO退任発表後には、株価が純資産の何倍かを示す株価純資産倍率(PBR)が約1.62倍から1.53倍へ低下しました。
「バフェットがいるから」という上乗せ評価、いわゆるバフェット・プレミアムが少しずつ剥がれているわけです。
日本の商社株にも、「バフェットが買った」という看板で集まってきた資金があります。
今後、商社株の値動きを決めるのは”看板”ではなく、資源価格、円相場、日本の金利、そして各社の稼ぐ力そのもの。
バフェットの名前ではなく、中身で選ばれる段階に入ったと考えるのが自然です。
バフェットを「本人の言葉」で学ぶ3冊
会長交代は、バフェットを”ニュースの人”から”古典の人”へと変える節目でもあります。
これから学ぶなら、解説本より本人と身内の言葉に近いものから入るのがおすすめです。
唯一の公認伝記。文庫は上中下の3巻。一気に読むならKindle合本版が便利。
ハワード本人の著書。父の「30億ドルで何をする?」への答え。序文はウォーレン。日本語版なし。
「資産運用の本質を学ぶ」名著リスト
今回紹介したバフェット本2冊に加え、バフェットの師グレアムの古典まで。市場と30年付き合っても色あせない本だけを、うさぎ技研のAmazonストアフロントにまとめています。
- 01賢明なる投資家(ベンジャミン・グレアム)
- 02スノーボール ウォーレン・バフェット伝
- 03バフェットからの手紙 第5版
- +『SHOE DOG』『PRINCIPLES』もリストで
ウサギ研究員の視点:天才の後に残すべきは「天才」ではない
カリスマ創業者の引退劇は、たいてい二つのパターンで失敗します。
後継者が小さな天才のふりをして自滅するか、創業者が院政を敷いて誰も育たないか。
バフェットはそのどちらも避けました。
経営は実務家アベルに、文化は「お金で動かない息子」に、そして自分の資産は2034年までに配り切る。
自分がいなくなった後の設計図を、生きているうちに全部実行してみせたわけです。
ハワードは投資の天才ではありません。
保安官バッジも国境の牧場も、ウォール街のエリート像とはかけ離れています。
でも、株主総会で「短期で株価を上げろ」と迫られたとき、「私は40回しか作付けできない農家だから」と笑って突っぱねられるのは、たぶんこういう人です。
日本の投資家にとっての教訓はシンプルです。バフェットの名前で株を買う時代は終わりつつある。
これからは、バフェットが何を見て買ったのかを自分の頭で考える番。
その答えは、たぶんニュースより本の中にあります。
最後に:日本ではあまり知られていない、バフェットの名言
「第一のルールは損をしないこと」「10年間市場が閉まっても持ち続けたい株を選べ」。
日本ではこのあたりがあまりにも有名ですが、英語圏ではもっと頻繁に引用される言葉があります。
今回の会長交代と重ねると、どれも違う響きを持って聞こえてきます。
“Only when the tide goes out do you discover who’s been swimming naked.”
潮が引いて初めて、誰が裸で泳いでいたかがわかる。
好景気の間は、無理をしている人も立派に見える。今年の夏、保険マネーをめぐって揺れた人たちを見ていると、この言葉の鋭さがよくわかります。
“Someone’s sitting in the shade today because someone planted a tree a long time ago.”
今日誰かが木陰で休めるのは、ずっと昔に誰かが木を植えたからだ。
複利の本質を語った言葉ですが、畑を耕し続ける息子ハワードへの継承、そして資産のほぼすべてを社会に還すという決断にも、そのまま重なります。
“Kindness is costless but also priceless.”
親切はタダだが、値段がつけられないほど尊い。
CEOとして最後の感謝祭の手紙で、ウォーレンは「偉大さは、お金や名声、権力を積み上げることでは得られない」と書き、こう続けました。「清掃係の女性も、会長と同じ一人の人間だということを忘れないでほしい」。
“You will never be perfect, but you can always be better.”
完璧にはなれない。でも、いつだって今より良くはなれる。
世間にはバフェットをめぐる噂や陰謀論もいろいろあります。
それでも、11歳で初めて株を買った少年が、85年かけて築いた富のほとんどを世の中に配り、後継者を育て、自分の足で一線を退いた。
この事実だけで、投資家として、ひとりの人間として、心から尊敬に値すると私は思っています。
ウォーレンおじいちゃん、60年以上、本当にお疲れさまでした。
そしてハワード会長、どうか「使わずに済む保険証券」のままでいてください。
よくある質問
- Qハワード・バフェットは投資判断をするのですか?
- A
しません。ハワードは非執行の会長で、役割は企業文化と価値観を守ることです。経営や投資の判断はCEOのグレッグ・アベル氏が担います。
- Q会長交代で三菱商事など日本の商社株は売られますか?
- A
現時点でその兆候はありません。アベルCEOは2026年9月の来日時に5大商社株を「数十年」保有する方針を示し、買い増しの可能性にも言及しています。ただし株価は資源価格や為替などにも左右されるため、個別の判断は各自で行ってください。
- Qウォーレン・バフェットの資産はいくらですか?
- A
米フォーブスの推計で1,446億ドル(約23.1兆円、2026年9月18日時点)、世界第10位です。一方で生涯寄付額は683億ドル(約10.9兆円、2026年2月時点)に達し、フォーブスの『米国で最も寛大な慈善家トップ25』で1位となっています。
- Qウォーレン・バフェットは完全に引退したのですか?
- A
いいえ。名誉会長として取締役会に残り、意見を述べ続けます。また現在もバークシャーの筆頭株主です。
- Qバフェットはなぜビル・ゲイツの財団への寄付をやめたのですか?
- A
ゲイツ氏と故ジェフリー・エプスタイン氏との交流が明らかになったことを受け、財団の外部調査の結果を待つ形で寄付を保留し、2026年7月の年次寄付から外しました。寄付は子ども3人が運営する4つの家族財団に振り向けられています。
- Qハワード・バフェットは何歳で、どんな経歴ですか?
- A
71歳(2026年9月時点)。農家として農場を経営しながら、慈善財団の会長兼CEO、イリノイ州メイコン郡の元保安官、コカ・コーラやADMの元取締役などを務めてきました。1993年からバークシャーの取締役です。
- Qマーク・ウォルターとバフェットに関係はありますか?
- A
共同投資や取引関係は確認できません。ただし、どちらも保険会社に集まる資金を投資の原資にしてきた点が共通しています。ウォルター氏が支配する生命保険会社は、関連会社向け投資の開示をめぐり米連邦検察とSECの調査を受けています(刑事訴追はされていません)。
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主な参考資料
- Berkshire Hathaway ニュースリリース・株主への手紙(2026年9月18日)
- Forbes「Warren Buffett」プロフィール(リアルタイム資産額)
- Forbes「America’s Top 25 Philanthropists」(2026年2月9日)
- Forbes「Billionaire Warren Buffett Steps Down As Berkshire Hathaway Chair」(2026年9月18日)
- Forbes JAPAN「ウォーレン・バフェットがバークシャー会長を退任」(2026年9月19日)
- Berkshire Hathaway 株主への手紙アーカイブ
- CNBC「Delaware Life sees two banks pause sale of its products」(2026年8月28日)
- Fortune「Mark Walter’s sports empire and private credit」(2026年8月23日)
- CNBC「Walter and Boehly selling stakes in Chelsea」(2026年9月17日)
- Reuters、Bloomberg、Business Insider、Nikkei Asia 各報道(2026年3〜9月)
- Phoenix New Times 調査報道(2019年1月)

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